2

□嘘つき
1ページ/1ページ


冬の朝の空気は凛と透き通っていて、身体中の熱を奪っていく。アルコールのせいで浮いた頭を冷やすにはうってつけだろう。

酔った勢いで好きだと言った。

酔った頭じゃなければそんなこと言えなかった。俺らはずっと友達で、それが恋人になるなんて、自分で考えてみても何だかおかしい。一方彼女は冷静だった。あの時は十分酔っていた気がしたけれど、多分俺があまりに変なことを言い出したから酔いが吹き飛んでしまったんだろう。冗談で笑い飛ばしてくれればまだ良かったのに、彼女は曖昧な返事をしたままそれっきり黙った。 公園のベンチに並んで腰を掛け、ぼんやりしていた。俺は彼女の方を見なかったし、彼女からの視線も感じることはなかった。ずっと黙りこくったままで、俺との距離を測っているみたいだ。沈黙を埋めようとして俺はいつもみたいに下らない話をしたけれど、彼女は曖昧な返事をするだけで会話が続かない。話そうと思って取っておいたとっておきのネタも、乾いた笑いと白い息と共に空に消えていく。

彼女は頭を冷やした俺が正気に戻って、悪いさっきの忘れてくれ、と言い出すのを待っているように見えた。そして俺がそう言うまでこの状態でいるつもりなんだと思う。だんだんと、さっきの自分はどうかしていたとさえ思い始めてくる。空が白んできた。始発も出る頃だろう。帰らなければいけない。

さっきの話、 長い沈黙の後に俺が口を開くと、彼女は小さく頷いた。本気だから、と言うこともできた。けれど今の俺は、その返答を受け止めるだけの余裕をとっくになくしていた。勇気を奮い立たせるだけの気力もない。忘れてくれ、一息置いてから、彼女はうん、とだけ言った。そこで漸く隣を振り向くと、どこか寂しそうな、でも安心したような表情をしていたから、これで正しかったんだと思う。



嘘つき
語った思いに嘘はない。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ