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□モブキャラCの恋
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モブキャラCの恋
「私、あなたのことが嫌い。」
そう告げると、彼女の瞳からは涙が零れた。その顔は泣いていても綺麗なままだ。でもいくら泣いたって、私は彼女のことを可哀想だなんてちっとも思えない。同情だってしてあげられない。私は彼女が嫌いだから。
彼女は勝手だ。今まであんなにあの人のことばかり追いかけて、彼に見向きもしなかったくせに、いざあの人がいなくなってしまったら彼に縋りつく。なぜなら、彼が断らないって知っているから。
「っ、なんで?」
不安に揺れる瞳で私を見つめてくる彼女は、やっぱり綺麗なままだ。私は彼女の問いには答えず、その場を離れる。これ以上ここには居たくない。
そうして町外れまで歩いて木の根元に座る。風がザワザワと木々を揺らす音だけが、耳によく響く。嫌い。大嫌い。いつも自分のことばっかりで、自分がどう見えるかばっかり考えて、確かに恋する彼女はいつも必死で可愛かったけど、それとこれとは話が別だ。
気が付いたとき、辺りは薄暗い闇に包まれていた。パキリと木の枝を踏む音が聞こえる。誰が来るかなんてだいたい予想がついていたから、そのまま座っているとその人物は私の前で足を止めた。
「・・・・・あの子はどうしたの?」
「・・・さっき泣き止んで、今は疲れて眠ってる。」
視線を上げて見上げた彼は泣きそうな顔をしていた。辛いのを我慢するかのように唇を噛んでいる。
「・・・そっか。」
私達の間に生ぬるい風が吹いた。嫌な風だ。自然と眉間に皺が寄る。彼に気付かれないように小さく息を吐くと、腕を掴みあげられて立たされた。彼はそのまま、勢いまかせに思いっきり拳を後ろの木へとぶつける。
「っ、なんで!なんであんな事言ったんだよ!あいつずっと泣いてたんだぞ!ただでさえ、・・・あいつのことで傷ついてたのになんであんなこと言うんだよ!!」
それは、君のことが好きだからだよ。
そう言ってやりたかったのに動くことができなかった。なかなか言葉を紡がせてくれない。代わりに口を少しだけ吊り上げてみせると彼は一瞬悲しそうな顔をして去っていった。去って行く彼の背中からは嗚咽の漏れる音がする。ごめんね、ごめんね。せっかく我慢してたのに、泣かせてしまってごめんなさい。
(ヒロインじゃないけれど)