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□(仮)結婚
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(仮)結婚



「お前、俺のことが嫌いだろう。」

いつものように二人で向き合って夕飯を食べていると、旦那が急に妙なことを言い出した。急なことに掴んでいた煮物がボロッと崩れて皿に落ちる。彼がこの類の冗談を好まないことは知っているし、何よりも顔が真剣そのものだ。いきなりなんなんだ。

「そんなことあるわけないじゃない。わたし達夫婦なのよ?」
「夫婦だからなんだ。まさかそれが理由になるとでも思っているのか?」
「愛してる。」
「白々しいな。」

眉間にたっぷりとシワを寄せたままそう言う彼にぴくりと口元が震えた。言いたいことがあるのならひと思いに言ってくれればいいのに。

「じゃああなたは?わたしのこと愛してる?」
「 ・・・・・愛している。」
「ならもういいじゃない。互いに愛し合っている夫婦。・・・何か問題がある?」

そう言うと顔の横を何かが通過していった。煮物だ。いくらなんでも食べ物を投げつけるのはやめてほしい。

「何か言いたいことがあるのならきちんと口で言ってくれない?」
「なら言うがお前・・・他に好きな男がいるだろう。」
「いるわけないじゃない。・・・そうね、例えば?」
「・・・・・弟だ。」

出てきた弟という言葉に僅かに肩が震える。咄嗟に誤魔化そうとしたが果たして彼、旦那には有効だろうか。しかしまさかバレているとは思わなかった。わたしが彼の弟のことを好いていると。そもそもこの結婚は愛し合った末のものではなかったのだし、別にバレてもいいのかもしれないが、やはり隠しておくべきだろう。

「ずいぶんとタチが悪い冗談ね。仮にこれがあなたのユーモアだったとしても笑えない冗談はごめんだわ。」
「よく口が回るな。そんなことで俺を騙せるとでも思っているのか。殺すぞ。」
「・・・夫婦がする会話じゃないわね。」

見つめ合って数秒。先に折れたのはわたしの方だった。両手をあげてみせると彼の眉間のシワが一本増えた。もうここまでバレているのならこれ以上隠しても意味はない。簡単に白状してしまうことにしたのは、例え愛のない結婚とは言っても気持ちよく過ごしたいからだ。

「・・・認める、ということか?」
「ええ。嘘をついていたことは謝るわ。それに仮にも夫婦。あなたとは仲良くしたいのもの。」
「そうだな。」
「でしょう?だからこれまで通り仲良くしましょうよ。」

旦那が投げた煮物を拾い上げる。ぐちゃぐちゃで、これじゃあもう食べられないな。このまま捨ててしまおうか。なにもかも。

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