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□愛の情
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愛の情



じりじり
ミンミン

じりじりとアスファルトを照りつける太陽から逃げるように、日陰になっている公園のベンチに腰を下ろした。ぎしり、と木が軋む音もすぐに蝉の鳴き声に消されてしまう。携帯を弄る気力も無いくらいに暑さでやられてしまった私とは違い、横でガサガサとビニールを漁る彼はすごく元気そうだ。アイスを頬張って今日一番の笑顔を見せる彼を横目に、わたしものそのそと手探りでビニールの中のアイスを漁って掴んだ。もう汗をかいているアイスの冷んやり感に浸っていると、彼はしゃりしゃりとアイスを食べる音を立てながら、もう半分以上も平らげてしまっている。そのまま立ち上がりまたコンビニへと向かっていった。もうアイス一本食べ終わったのか、いくらなんでも早すぎる。わたしなんてまだ開けてすらいないのに。ぼうっとベンチに一人で座っているとなんだか少し変な気持ちになってきた。耳にはミンミンと蝉の鳴く声や、遠くからは誰だか知らない人たちの話声が聞こえる。・・なんだか少しもの悲しくなってきた。ほんの数秒前にいなくなった彼をアイスと共に待つ時間がすごく長く感じる。

タッタッ
「アイスはやっぱうまいな。」
「おかえり。」
「おー、おいアイス溶けるぞ。」
「もう溶けてるよこれ。」

既にどろどろに溶けたアイスを食べると口の中に広がる甘ったるいバニラアイスが冷たくて気持ちいい。少し奥歯にしみる。横でまた彼がアイスを食べ始めた。それにしても暑い。暑いってか熱い。今アスファルトに生卵落としたら目玉焼きが出来ると思う。今日は風がない日だからどこ歩いていてもサウナの中みたいで、日本がその内アイスみたいに溶けちゃうんじゃないかとさえ思う。ふう、と無意識に息が出てしまい彼が髪を掻きながらこっちを向いた。

「あ?なんか言ったか?」
「いや、別に。」
「・・・お前さあ、進路どうすんの?」
「まだ決まってない。」
「俺も。」
「休み明けたら真面目に考えないとね。」

おー、と言った声はすごくやる気のないものだった。考える気ないな、と思いながら改めて彼の顔をみればやっぱりだるそうな顔でぼうっと空を見上げていた。無造作に伸ばされたままの髪は触れてみればきっとキシキシに傷んでいるんだろう。切ればいいのにと言えばめんどくさいと言う声。口に含んだままのアイスの棒をぷっとスイカの種みたいに飛ばしてまた立ち上がった彼に、今度はわたしも一緒に行こうと同じく立ち上がった。飛ばした棒をよく見てみると先の方に文字が書いてある。まさかと思って近寄って見てみれば太陽に照らされる当たりの文字。彼は今日ついてるようだ。

「ねえ、これ当たりだよ。」
「まじ?」
「よかったじゃん、運良いね。」
「あーあ、こんなとこで運使いたくなかった。」
「なんで、嬉しくないの?」
「アイス当たるより受験うまくいくほうが嬉しい。」

ずん、と彼の言葉がわたしの内に落ちてきた気がした。なんでだろう。だるそうで、何も考えてなさそうな彼もちゃんとこういうこと考えてるんだ。きっと周りのみんなも言葉や顔に出さないだけでちゃんと考えてるんだろう。まだ平気かなって思ってたけど全然平気じゃない。みんなは、彼は、どう考えてるんだろう。なんだかみんなを遠く感じる。わたしだって何にも考えていないわけではないけど、こうやって考えると急に襲ってきた不安に頭が真っ白になる感じがした。黙り込んだわたしを不思議に思ったのか彼が声をかける。返事をしようにも言葉がうまく出てこなかった。彼が、みんなが、遠くにいる感覚が消えてくれない。

「おーい、聞いてるか?」
「みんなと離れたくないなあ。」
「・・急だな。」
「うん。・・・・ほら、アイス買いに行こう。」
「おー。」

こんなこと考えていても仕方ない。また日陰のベンチに座ってアイスにかぶりつく彼を見て、いつか別れが来るそのときまで、ついて行こうと決めた。そう思うとふつふつと何かが沸いてきた。これはきっと、










でも
(そのとき、私はどうしようかな。)

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