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□ただまっすぐに
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ただまっすぐに



大切な話があるの。

そう言われて彼女に連れ出されたのは、今回が二度目だった。この島にある唯一の喫茶店は今日も学生で賑わっているというのに、俺たちの座る席だけはまるで見えない仕切りがあるかのように別空間となっていた。店内にのっそりと座っている古時計は秒針をゆるゆると巡らせて、時を一刻と奏でていく。目の前のコーヒーは暖かみをふわふわ逃がして、ぬるくゆるく琥珀を震わせているのを、ただただ俺は眺める。

静かだ。いつも楽しそうに話しかける彼女の姿は目の前になく、またいつも彼女の話にそっと心を寄せようとする俺の姿もここにはいない。俺はうつむいたままでいて、彼女もまた俺を見ようとはしなかった。

卒業が近づくにつれ、それぞれが考えを持ち、悩み、歩み出そうとしている。俺も彼女も、それは例外ではなくて。だからこそ、薄々と感じていたことがある。

「私、この島を離れることになったの。」

重たく口を閉ざしていた彼女が、小さな音を視線の先に落とした。あぁ、やっぱりか。言葉が入ってきて、予想が現実になったと納得したら、胸の奥がひどく締め付けられた。彼女の側に居すぎたせいか、感情の変化には敏感になっていたらしい。顔に出さないようにそうか、とだけ呟いて。静かに顔を上げた。彼女の視線はまだ、下を向いたままでいる。





「あの、私とお付き合い、しませんか?」

彼女が俺を最初にここへ連れてきた時。確かにそう言った。今と同じでうつむいたまま、けれども今とは違って恥ずかしそうに。俺を異性として意識していた事を伝えた日が、確かにあったのだ。

だが今はどうだろう。あの愛らしい姿はどこにもなく、悲愴を抱えながら俯く姿しかない。泣き腫らしただろう瞳がぼんやりと宙を迷いながら、視線は少し、俺の方へと向きつつある。

だから。
その先の言葉は、どんな問題よりも安易で導きやすいものだった。聞かなくてはダメだろうか。聞きたくないな。離れたくない。自分の中にいる幼さが、やめろやめろ、いやだいやだと駄々をこねる。たったその一言を聞かなくていいように、今までどれだけお前を大切にしてきたと思っている?彼女はただ、その縛りから俺を解放しようとしているに過ぎない。しかし、それを切り出したところで、お前を思う気持ちが俺の中から消えてくれるわけではないというのに。涙の跡が残るその表情は諦めにそっと意を決し、視線はついに、俺へと交えた。

「私とお別れしませんか。」





いつから彼女は、こんな悲しい言葉をまっすぐ言えるようになったのだろう。

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