元拍手文

□Golden Harvest
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秋の実りは黄金』の続き



パラパラと傘にあたる雨の音を聞きながらの帰宅途中、前方に見覚えのある黒い塊が視界に入って、沢田綱吉はぎょっとした。
しかもしかも、である。あれは雲雀恭弥ではないだろうか。
だって、茶色のブレザーが制服の並盛にあって、真っ黒の学ランで、リーゼントでない、となれば、彼一人しかいない。
その雲雀恭弥が、シャッターのおろされたタバコ屋の前で、傘もささずに座り込んでいる。
少ししか張り出ていない屋根は雨をしのぐのには心もとなく、案の定雲雀は濡れてしまっていて、手は立てた膝の上。表情はうつむいていて見えない。

綱吉は、大変困った。
家に帰るにはこの道をまっすぐ行けばすぐだ。遠回りなんてしたくない。
だって冷たい雨が降っているのだ。この季節の雨は、ひんやりと、だが確かに温度を奪っていく。
今日は手袋も忘れてしまったから、傘を持つむき出しの指がかじかむ。
たらたらしていたら、きっと風邪をひく。
綱吉だって風邪ひきたいわけじゃない。
学校は休んでゴロゴロしたいけれど、熱なんて出して苦しいのは嫌だ。

(う〜早くおうちに帰って、着替えて、温かいココアでも飲みたいのに……)

目の前はオオカミ。でもその向こうには甘くておいしいココア。

(遠回りしようかな……でもなぁ……)

綱吉が雲雀に気付いたということは、綱吉よりも数段、いや野生の肉食獣の如く鋭い雲雀は絶対綱吉に気付いている。
もしここで遠回りするために道を引き返したって、雲雀の今までの行動パターンを考えるときっと追いかけてきて絡まれる。
そんで明日か明後日、次にからまれるときにも、このことをダシにまたいじられる。
これは決して自惚れなんかではなく、「雲雀恭弥は沢田綱吉に出くわすたびに絡む」というのは並盛高校ではもう全校生徒の認識することとなっていた。
応接室を尋ねたあの日、雲雀に出くわしてしまったことが綱吉最大の不運であった。

さて、どうせ絡まれるんだったら、遠回りせずにお家への最短ルートを通って絡まれよう!
そう決意した綱吉は、かじかむ手を握り締め覚悟を決め行くべき道を突き進んだ。



「…………」

結果、なんと綱吉は無事に雲雀の目の間を通過した。
雲雀に絡まれなかったのだ。
通り過ぎてこっそり振り向けば彼は先ほどの場所から微動だにしていない。
ここ最近の中で雲雀が綱吉を見かけたのに、絡んでこないなんて初めてだ。

(ついにあきらめてくれた!?)

雲雀に追いかけられないことは素晴らしい。願ってもないことだ。
これで綱吉は平和な日々を取り戻せるかもしれない!
もう一度振り向いて雲雀を確認してみても、彼はやっぱりタバコ屋の前で座り込みうつむいたままだった。
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