元拍手文

□雲雀のひは●●のひ〜
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「雲雀のひは⚫︎⚫︎のひ〜」


ここ数日、並盛では大雪に見舞われ、ほとんどの者は家でゆったり過ごしていた。
並盛の支配者雲雀恭弥もその例外ではなく、珍しく大人しくしていた。
というのも、雲雀恭弥は人外のように強く並盛最強最凶ではあったが、実は風邪には弱い。
風邪を拗らせて入院、なんてこともしばしばあるのだ。
こんな雪の日に外を出歩いて万が一風邪でもひいたら後がめんどくさい。
だったら数日くらいは外に出て群れを咬み殺すのを我慢するか。
ということであった。

そして久しぶりに晴れ、雲雀は学校に、というより応接室に登校していた。


タッタッタ。
軽い足音が廊下に響く。
廊下は走るなと毎回注意しているのに一向に聞く気配すらない。
風紀違反のはずなのに、その足音が誰のモノか予想できている雲雀は、らしくもなく口元を緩ませた。

(あの子が来るならお茶でもいれようか)

そう考えて椅子から立ち上がった丁度その時、応接室のドアが開かれた。




沢田綱吉は今急いでいる。
雲雀恭弥が久方ぶりに学校に来ていると聞いたからだ。
綱吉は雲雀のことを、愛読書の少年〇ャンプに出てきた〇イヤ人か〇兎のような戦闘民族的宇宙人だと思っている。
が、同時に彼が風邪に弱いと知っていた。
以前風邪をこじらせて入院していたひばりと病院で鉢合わせ(てボコられた)過去があるのだ。
並盛もここのところ雪が降りつづけて寒かったし、雲雀は登校していないようだったから風邪でもひいたのかと心配していたのだ。

綱吉は応接室のドアを勢いよくあける。

「ヒバリさん!!!」
「やあ、沢田綱吉」



「…………へ??」

綱吉を迎え入れてくれたのは、雲雀ではなかった。
固まった綱吉に気づくことなく、雲雀っぽい人は「お茶、いれてきてあげる」と告げ、隣の給湯室へと吸い込まれていった。

綱吉はその後ろ姿を、目をぱちぱちさせて見送る。
えっ……。
いや、確かに迎えてくれた声は雲雀のものだった。
あの丸い後頭部にも見覚えがある。
だがしかし……。

「なにそんなとこで突っ立てんの。早く座りなよ」

態度も雲雀そのものである。
ごくり。
唾を飲み込んで綱吉は恐る恐る尋ねた。どうか違って欲しいと願いながら。

「……雲雀、恭弥さん?」
「なにいってんの当たり前でしょ。君、バカ悪化させたの?」

間髪入れずに肯定された!
そうじゃないかと思ってたけど否定して欲しかった!
だって!だって!こんなひどいよひどすぎるよ!
なんて内心で叫びながら崩れ落ちた沢田綱吉を、雲雀っぽいではなく雲雀だった人は、はてなマークを飛ばして見つめている。

「ひば、ひばりさん、どうしちゃったんですか……?」
「どうしたって何が?」

雲雀は本当にわかっていないのだろう。
しかし涙で滲む綱吉の視界にはそれでもしっかり存在を主張するそのボディラインが、現実から目を逸らさせてくれない。

雲雀は、いつものすっきりしゅっとしたスマートな出で立ちはどこへやら、顔は破れ饅頭のようにパンパン。指はポークビッツのようにぷにぷに。シャツのボタンが弾け飛びそうな程でっぷりとした存在感のあるお腹をゆさゆさと揺らしている。
数日見ないだけで、驚くほどの変貌っぷりである。




▼▼▼

「……実はな、沢田。委員長はとんでもなく太り易い体質でいらっしゃるのだ」


「オレの、かっこいいヒバリさんが……」とさめざめ泣き続ける沢田綱吉と、それを放置して「なに?沢田食べないの?僕食べていい?なんかお腹すいちゃって」と羊羹をもしゃもしゃ棹のまま食べている雲雀恭弥(肥満)、とういうめちゃくちゃカオスな現場に出くわした草壁哲矢は、床にぺたりと座り込んで泣き続けている沢田綱吉をとりあえずソファーに移動させて、解説してやった。
草壁が言うには、雲雀はいつも群れを咬み殺すという尋常でない運動量でスマートさをキープしていたが、それをせずに数日引き込もっていたために、摂取カロリーが消費カロリーを大幅に上回り脂肪として蓄えた結果、当たり前のように太りすぎたそうだ。
雲雀はとっても燃費が悪いらしく、というか糖分の摂取量が半端ないらしい。
いつもすました顔して飲んでいるあの紅茶にも、溶けきらないほど砂糖を(綱吉に隠れて)ぶっこんでいるらしいのだ。
さすがに、今飲んでいる緑茶に砂糖を入れる暴挙には至っていないようだが、そのかわりの羊羹である。

草壁の説明を聞いた綱吉は、ぐすりと一度鼻をすすった。
説明を聞いて理解はした。理解はしても納得できない。
雲雀は今、「ねえ、哲、貢物のバームクーヘン、どこに置いた?」なんて言いながら、隣の給湯室の棚を漁っている。


その、肉がついてカーブを描いている背中を見つめた綱吉は、握り拳を一つ作って、ゆらりと立ち上がった。

「……ヒバリさん、」
「ん?どうしたの、沢田。あ、君もバームクーヘンちょっと食べる?」
「食べません!」

言うだけ言って、雲雀が手にしていた紅茶を奪い流しにどばっと捨ててやった。

「ちょっと!何するの!?」

むすっとしたヒバリに対して沢田綱吉は、そう、まさに鬼の形相だ。
キラリと決意を込めた瞳には涙が光る。

「ヒバリさん、これから当分、糖分は禁止です。あ、今のは駄洒落じゃないです」
「ヤダ」
「じゃないとお別れします!」
「そ、そんな」

こうして、涙目の綱吉と雲雀の涙ぐましいダイエットが今ここに始まる!


(つづかない)

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