元拍手文

□ヒバリ・ヒバリ・ヒバリ
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扉が開くまで気が付かなかった。

「ぐっ」

認識した時には地に伏せていた。

「そんなに落ち込むことはないよ。僕は君の倍は生きてるし、ましてや戦闘経験なんて二倍じゃ済まない」

どこかで聞いたことがあるけれども、決して聞いたことはないはずの声で。
どこかで見たことがあるけれども、決して見ることはないはずの顔で男は笑った。

「君が僕であるならば、いつかは僕にたどり着けるよ」

人間が体を動かすための指示系統が詰まった頭に強烈な一撃を叩き込まれてダメージを処理しきれなくて、体が重い。
自分の血の味を感じるなんていつぶりだ。
ぐぐぐっと腕に力を入れて立ち上がろうにも、うまく筋肉が作動しない。

「ああ、でも」

歯を食いしばって見上げた男は、考えるそぶりをしながら自分の右手の中指と人差し指で顎を何度か撫ぜている。
それは、僕が見たこともやった覚えもない所作。

「今はちょっと大人しくしていてもらいたいかな」
「がっ」

着物の裾から覗く足に腹を強打され、また床に沈む。






「うん、やっぱりお茶はここの銘柄に限るよね。趣味趣向っていうのは案外変わらないものだ」

腹と顔に一発ずつのたった二発で完全に沈められた後、足首を縛られ、手も後ろに縛られた。ご丁寧に猿轡までも。
足や腕が痛まないようにだとかの配慮など一切ない縛り方に、腹の奥底からの怒りが収まらない。
よく見知った部屋を、床付近から眺めるなんて。
先ほどまで雲雀恭弥だけのための空間だった並盛中応接室は、支配権を突然の来襲者によって奪われた。
雲雀の執務机に座って隣接する給湯室にて自分で淹れたお茶を飲む男は、勝手知ったる様子で、というよりも彼が彼自身であるならば、かつて彼もこの応接室の主であったのだから、この部屋の構造やどこに何があるのか熟知しているのも当然である。
襲撃してきたのは、『雲雀恭弥』であった。それも『未来の』、という注釈つき。

「ああ、来たか」

ぴくりと床に転がされたまま反応した僕には見向きもぜず、未来の雲雀恭弥が独り言をこぼした。
誰かがここへ、応接室へやってくる。
足音は二人分。
一人はわざと、存在を知らせるために足音を鳴らしていて、そしてもう一人は。

「……!」

僕の反応を見て、鼻で笑った男をいますぐ咬み殺したい。
イラつきだとか殺意だとかそういったものをすべてごった煮にして、腹の底が熱い。
と、外から間抜けな声がかかる。

「えっと、失礼しまーす」
(馬鹿、開けるな……!)

些細な願いもむなしく戸は開かれ、そっと覗いたのは、やっぱり田綱吉で。沢田綱吉は床に転がっている僕にまだ気づいてなくて。

(なんで沢田が……)

「ほら、先に進んでくれないと、僕が入れない」
「あ、すみません!」

またしても聞き覚えのある声に促されて沢田が完全に応接室の中へ。
その後ろから入ってきたのは、もう一人の足音の主――わざと存在を主張するように足音を響かせていた男――雲雀恭弥だった。
今度の雲雀恭弥はスーツを着ていて成人はしているのであろうが、着物姿の雲雀恭弥よりも幾分か若い。

「あ、ほんとうだ、ヒバリさんがもう一人!」
「やあ、14歳の沢田綱吉」

僕を挨拶もなく殴ってきておいて、何が、「やあ」だ。

「あ、はい。こんにちは」

沢田綱吉も、呑気に挨拶しているんじゃない。
僕にはまだ気づかないくせに、何をやっているんだ。
ここにいるのは、『雲雀恭弥』だ。気を抜いていい相手じゃないだろう。

「おいで、沢田綱吉」

響いた声に、ぱちりと、一つ瞬いた沢田の瞳から光がこぼれる。
沢田の後ろにいるスーツ姿の雲雀恭弥が、うっすらとした微笑みを湛えて、後ろ手で戸に鍵をかけた。

「僕たちと、遊ぼうか」

全身を静電気がばちりと走るように、怒りが駆け巡った。






終わりでもいいけど
話の雰囲気をぶち壊していても、何が来てもどんなに酷い話(※謙遜でない)でも許せるなら次ページ→
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