元拍手文

□瞳の星に口づけて
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ヒバリさんの瞳には星があった。とっても綺麗。

綱吉にとってそれは素晴らしい世紀の大発見だった。
そして考えた。他の人の瞳にも星はあるんだろうか。って。

「京子ちゃん!」

一緒にお昼休みにお弁当を食べようと隣に座っている友人で、憧れで大好きな京子に綱吉はお願いをしてみようと勇気を振り絞った。

「あのね!」
「うん。どうしたの?」

ちょっとだけ首を傾げて優しい声で訊ねてくる彼女はとっても可愛くって、やっぱり特別製の女の子なんだと思う。
特別製の素敵で可愛い京子ちゃんの瞳の中になら、燦然と輝く一番星が光っていてもおかしくない!って綱吉は考えた。

「あの、目!見せて、くれる?」
「め?」
「うん……」
「いいよっ」

やっぱり変なお願いだったかな、ダメかな、嫌がられちゃうかな、なんて考えて下を向いてしまった綱吉の手を、京子はぎゅっと握った。
ぱっと顔をあげれば、京子の顔があって優しい表情で綱吉を見ている。

綱吉を覗き込んでいる瞳はやっぱり綺麗だった。
大きなアーモンド型の目を長くてくるりとカールしている睫毛が囲っている。
京子が瞬きすると、それだけできっと男の子たちは恋に落ちちゃうんだろうなって綱吉は感心した。
でも。

(星が、ない……)

どんなに目を凝らして探しても、京子の瞳に星はなかった。
人見知りで、あまり他人と目を合わせて生きて来なかった綱吉が知らないだけで、人の瞳の中には星があるのかなって最初は思った。
けれども近所の子どもやお爺ちゃんお婆ちゃんといった普段気を張らずお話しできる人の瞳をそれとなく覗いても綱吉は星を発見できなかった。
だから次に綱吉は、何か特別な人の瞳の中に星が宿るのかと思ったのだ。
特別、という意味なら雲雀は特別な人間だ。
綱吉の残念な語彙力では雲雀の特別さは表現できないけれど、雲雀は本当滅茶苦茶だし、とにかくスゴイ。なんといってもこの並盛の風紀委員長さまだ。
ダメダメのダメツナなんて言われてしまう綱吉とは全然違う。
雲雀の黒くて綺麗な瞳の中に星があるのはすごく納得のいくことだった。
それで、軽い気持ちで、雲雀にもあるなら可愛くて特別製の女の子で、この子は自分の友達だって世界中に自慢したいくらい素敵な京子の瞳の中にも星はあるんじゃないかなって思ったのだ。
なのに。それなのに京子の瞳に星がないなんてあんまりだ。こんなのは世界の酷い裏切りのように綱吉は感じた。

「ツナちゃん、どうしたの?」

しょぼんとして眉をハの字に垂れ下がらせてしまったツナに京子はびっくりして訊いてみた。
でもあんまりなことに綱吉だって困惑しているのだから、どう言ったものか分からなくて、答えあぐねていると、隣から黒川花が助け舟を出してくれた。

「ほらほら、あんただけで悩んだって仕方ないんだから、言っちゃいなさいよ」

(そうだ、花!)

京子の瞳は茶色くてどちらかというと綱吉と似ている。
一方で花の瞳は黒っぽくて雲雀の瞳の色に似てなくはない。
それに花も大人っぽくて素敵な女の子で自慢の友人だ。
綱吉は持っているものは少ないけれども、その分友人には恵まれていると自負している。
もしかしたら黒い瞳の特別な子に、星の光が見えるのかもしれない。
そう思ったけれど、花と雲雀の共通点、それから脳内で雲雀と大人っぽい花の二人を並べてみたら実はお似合いな気がして、綱吉はなぜだかちょっとだけ苦しい。
花は「年下は相手にしない」、と常々言っているけれど、雲雀は(多分)綱吉たちよりも年上なので十分花の範囲に入るんじゃないだろうか。

「ちょっと、また眉間のシワ深くなってるわよ」

何て言いながら綱吉の眉間をグリグリしてくる花の瞳。
綱吉はそれをこっそり覗いた。

「……ない」
「なにが?」
「あ、」

ちょっと安心してしまって、つい声が出てしまっていた。

「ツナちゃん、私も知りたいな」
「ほら、言いなさいよ!気になっちゃうじゃない」

綱吉にはもう意味がわからなくなったので、この際二人の意見を聞くしかない。
二人ならきっと答えを教えてくれるはずだ。
そう考えて、友人二人に促されるまま、綱吉は重い口を開いた。

「あのね、すごく変な話なんだけど……」

笑わないで聞いてね、と付け加えて。
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