元拍手文

□東雲にモーニンググローリー
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つい先程、無惨にも廃墟と化した城壁の一部に背中を預け、沢田は息をつめたままそっと肩越しに背後の森を見た。
森のなかには、先程まで沢田たちが宿泊していた古城を廃墟へと変貌させたやつら、すなわち沢田綱吉のボンゴレ10代目への就任に反対している勢力が展開しているはずだ。
勢力の数は正確なところは分からない。
ただし、未来で雲雀が叩きのめしたミルフィオーレの軍勢の数倍はあるだろう。さらに言えば、あのときは入江正一という内通者もいて、敵の戦力はしっかり把握していた。
つまり今回、沢田綱吉ならびに彼の守護者たちは、10代目就任を目前に特大のピンチといえた。
今回のピンチは、ある意味お家騒動で、その原因は綱吉の人望の無さとは別の部分にある。
マフィア、特にイタリアンマフィアは血縁を重視する。しかし沢田綱吉は伝説の初代の血筋と言えど、初代からかなり代も隔たっていて、流れる血も生まれ育ちもほとんど日本である。
では側近である守護者はというと、雲、晴、雨は完全に日本人。嵐は半分だけの半端者。イタリア人なのは雷と霧くらいなものだが、霧など出生が定かではないし、雷は弱小ファミリーの所属で話にならない。
これに納得できないイタリア人マフィアというのは、組織中央に近いほど多いものだ。
つまり、今回の原因は、沢田綱吉及び彼の守護者たちに人種的立場的問題を含んでいて、シリアスでディープなのだ。

「オレを殺したってどうしようもないのに……」

独り言をこぼす沢田は、やはり息をつめたままだ。
ボンゴレのボスを真に選ぶのは、指輪だ。世界の真理たるトゥリニセッテの一角を担うボンゴレリング。
綱吉はもう何年も前、まだ中学生にすぎなかった頃には既にリングを継承しその力を解放し、さらには自らのものへと作り替えてしまった。
それを無視して闇に葬ってしまおうと思うくらい、反対勢力の連中は腹に据えかねたわけで、やっぱり状況はシリアスでディープだった。
沢田本人は、シリアスでディープなんて向かない、大なく小なく並みがいいと思っているのに、いつも巻き込まれてきた。
ただ、今回は違う。自分から飛び込んだ。反発があるのも、家庭教師からも言い含められ分かっていた。
それでも、沢田は10代目に名乗りをあげた。いつかの誓いを果たすために。

沢田が今着用しているスーツは、最高級の生地。黒のピンストライプに漆黒のマントを羽織り、胸元でゴールドのチェーンでとめている。
意図して、初代ボンゴレボスに寄せられた格好である。明日の継承式で着るはずだったものを、ついさっき家庭教師がいきなりやってきて「今着ろ」と投げて寄越した。
訝しく思いながらも着替えると、リボーンはさらに、「ボンゴレたちに、ウチと正一から」というスパナ&入江正一謹製のワイヤレスイヤホン型の無線機を渡してくる。

「守護者の野郎共も今頃それを手にしているし、すぐにでも使えるぞ。それにお前のはコンタクトともセットで技のナビゲーション付きだ」

コンタクトは今も着けてるな?と尋ねるリボーンに、沢田は嫌な予感をびしばし感じながら頷くと、満足そうなリボーンは滔々と語った。曰く、

「反対勢力どもも一枚岩じゃない。やつら、お前を引きずり下ろそうと、政治的駆け引きを獅子身中の虫ばりに仕掛けてくるのと、各個別々に戦いや守護者およびボスの暗殺を仕掛けて来ようとしてやがった。そこで、感謝しろダメツナ。一回で全部叩き潰せるように派閥をまとめ、お膳立てしてやったぞ!反対勢力一挙集合ガチ対決ダゾ!こっちも今晩は守護者全員揃ってんだ。一回でまとめて叩き潰せた方が楽だろ?というわけで、気張れよ、ツナ。オレは見守ってるぞ、チャオチャオ〜」

あんまりなことに途中から口をポカンと開けて聞き入ってしまっていた沢田が「リボーンちょっと待て」と叫ぶより早く、閃光が煌めいて爆発が起こり、今に至るわけだ。

反乱を起こさせないという選択肢、家庭教師様にはなかったのだろうか。
「ムリだぞ」と、沢田の脳裏でリボーンが一刀両断する。確かに、反対勢力が一番問題視しているのが綱吉たちの出自をめぐるアレコレだというなら、沢田たちが「がんばります!」と言ったってどうにもならないのだから、無理の一言に尽きる。
城を廃墟にした爆発で少し綻んだスーツから出る手が震えているのを、沢田は自分で見ると、爆発時に反射的に掴んだ27マークの毛糸のミトンと死ぬ気丸入りの瓶をぎゅうっと握りしめた。

何度も危ない目にあった。何度もみんなを巻き込んだ。そして今度はついに沢田本人がみんなを連れて渦中に飛び込んだ。
爆発程度で死ぬようなみんなではないと分かってはいるが、無線にまだなんの反応もない。
相手もこれぐらいの攻撃で沢田も守護者たちも死ぬようなタマでないことくらい分かっているだろう。
それでも、二激目をまだ仕掛けてこず、嫌な静寂を保っている。
自分の足が震えているのが分かる。
相手はもしかしたら沢田たちの位置を把握しきれておらず、こちらが耐えかねて飛び出るのを手薬練引いて待ち構えているのかもしれない。

(夜明けを待つか……?)

沢田のオレンジ色の炎は夜の闇には明るすぎて、よく目立つ。今死ぬ気丸を飲み込んで炎を溢れさせてしまえば、敵からすると格好の的だ。
夜の闇に炙り出されて蜂の巣にされては堪らない。
幸い、あと数刻で日が昇り始めるだろう。それまでは身を隠しなんとかみんなと連絡を取って。
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