□帰り道ラブストーリー
1ページ/8ページ

 今日は前々から告げられていた補習だった。しかし先生に急用が出来たため課題のプリントを渡されて、それを提出したら帰っていいという。それだったら今日の補習なしにしてくれたらいいのに!と綱吉は叫んだが、聞き入れてもらえるわけがなかった。

 補習仲間の親友は今日に限って野球部の部活で遠征だし、頭のいい方の(顔もいい)友人は、彼の姉がつくった料理で食あたりを起こして学校をお休み。仕方なしに、一人補習プリントを解いていたのだが、綱吉は数字を見ているとなぜだかとっても眠くなる。結果、爆睡。

 次に綱吉が意識を取り戻したときには辺りは真っ暗。時刻は8時半。下校時刻をとっくの昔に過ぎていた。
 いくら綱吉が寝汚いといっても、限度があろうに…。誰も起こしてくれなかったという事実もちょっぴりツライ。

 ここでちょっとご紹介。今、一人取り残された学校で真っ青になっている綱吉こと沢田綱吉は16歳。こんな名前でも女の子。最近誕生日を迎えたばっかりの高校一年生。一人称は俺だし、かなりドジでがさつなところもあるけれど、ちまちましていて小動物的雰囲気がある。ちなみにあんまり運は良くない。というよりもトラブル吸引体質と言った方が正しいか。それ以外は基本善良な生徒である。ちょっと薄い色素の髪と目は、彼女のご先祖さんに外国人がいたからで、染めたりカラコンを入れているわけではない。彼女、見た目はふわふわしてとても可愛いのだが、残念なことに頭の中身もふわふわしていた。

 そうでなければ、寝過して下校時刻を超過するなんてアホな真似、この学校の生徒にはできない。綱吉の通う並盛高校は、校則にとてもとても厳しかった。

 綱吉はとりあえず帰らなくてはと、プリントを鞄につっこんで大慌てで帰り支度をする。
電気も落とされ暗くなった学校を綱吉は半泣きで疾走した。綱吉が半泣きなのは、彼女は確かに超がつく程の怖がりではあるが、暗い学校が怖いわけではない。少しはそれもあるが、並盛にはお化けよりも恐ろしいものがいる。黒いリーゼント集団の風紀委員たちとそしてそれを束ねる風紀委員長雲雀恭弥こそが、並盛における恐怖の代名詞であった。

 いくらなんでも大げさすぎる。とお思いかもしれない。しかし並盛高を支配する風紀委員会は容赦がない。風紀を乱したものは制裁。並盛の風紀委員は、ブレザーが制服の並盛高校で、学ランにリーゼントというちょっと前の不良的な強面集団。
 しかもなんとその風紀委員会、高校だけではなく町全体を支配しているのだ。おかげで並盛の治安はすこぶる良いのだが、風紀委員を取り仕切る風紀委員長というのが、群れているだけで咬み殺す理不尽の権化であった。しかもめちゃくちゃ強い。トンファーを手に築いた屍の山は数知れず。並盛最強最凶の不良なのである。


 もしかしたら、もうすでにドアや門が施錠されているかもしれない。そうなったら適当な窓から抜け出して、塀でもなんでもよじ登って帰ろう。
 風紀委員に見つからずに、いかにして学校から脱出するか。今の綱吉にとって、問題はその一点に尽きる。
 階段を降り切って下駄箱まであと少し。階段の踊り場の物陰に隠れて息を整えながら付近の人影を確認。風紀委員の姿は見えない。
 よっしゃ行ける。綱吉が勝利を確信したそのときだった。


どさっ。


 再び走り出そうとした綱吉の横に、何やら黒くて大きい物体が、階段の吹き抜けを通って落ちてきた。
 ギギギギギギ、と、音が鳴りそうな動作で“それ”を確認する。本能か何かが綱吉に見るなと訴えているのに、どうしても見ずには居られない。

 ぴたり、と銀色が鈍く光る鉄の棒が綱吉の首にあてられる。金属の棒が冷たい。背筋までひんやり。

「やあ、沢田綱吉。もう、とっくに下校時刻は過ぎたよ。こんな時間にこんなところで何をしているんだい?」
「ひ、ヒバリさん…」

やっぱり綱吉には運がない。
鬼の風紀委員長、雲雀恭弥様のご登場である。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ