□Tigers don't herd together, But…
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 赤ん坊の呪いだとか代理戦争だとか良く分らない戦闘が終わって全て元通りのはずが、胸の内に燻る何かは消えなかった。
それは焦燥。
何に焦っているのか、そんなことはもう分ってはいるのだけれど。

 そして苛立ちを抱えた夕暮れの街で、彼を捕まえた。
黄昏の淡い光の中で、同じようにモヤモヤとしたこの気持ちを消してしまおうと思った。

「僕は君が、嫌いだよ」

 はっきりと告げれば目の前の沢田綱吉は眉を八の字に下げ困った顔をした。

「雲雀さん。そんな顔して、そんなこと、言うもんじゃないですよ」

 なんなの。僕がどんな顔をしているというのさ。
まるで、子どもに言い聞かせるような彼の口調にムッとした。
すると今度は僕を見て苦笑するもんだから、ますますイライラが募る。

「オレ、今は群れていないですよ?」
「今はね」

 だから、何、笑ってるの。
もういっそ一思いに咬み殺してしまおうか。
最近のこの子は全部お見通しだって感じなのが本当にムカつく。
けれど。

はぁ。

 こぼれ出た、ため息は深い。溢したのは僕の方だった。

「……違うね、僕は君が嫌いなんじゃない。君の周りに群れる弱いやつらが嫌いだ。そんな奴らと群れている君は嫌いだ」

 君にならなんとかできると言って、君に重荷を背負わせようとする奴らが嫌いだ。
君みたいな小動物に背負わせずに、自分でどうにかすればいい。
なのに、拒絶せず全て許容してしまう君が嫌いだ。

「オレの周りに群れるって……あっ山本や、獄寺くんにお兄さんのことなら彼らも結構強いですよ?それに京子ちゃんやハルは戦えなくても色々助けてくれますし……」
「僕にしてみたらどいつもこいつも同じさ。彼らは僕より弱い。それにあいつら『守護者』といっても君の方が強いんだし、彼らといることで君は結局お荷物を背負いこんでいるだけだ」

 そうだ。『守護者』だのなんだの言って。
僕は自分がその地位に縛られる事を決して認めてはいない。
けれど、そんなくだらないものが縛ろうとしているのは何も『雲雀恭弥』だけではない。
『守護者』という存在で闘いを厭う小動物を縛りつけ、戦場に赴かせる。
それに最終的には守るべき人に守られてばかりで何が『守護者』だ。……聞いてあきれる。
 そしてそれは自分も例外ではない……。
あのとき。D・スペードとの戦いを閉じ込められていた空間からただ見ているしかなかったとき。
イェーガーという男の攻撃――おそらく致命傷だった――をくらいそうになったとき。
病院で目が覚めて全て終わった後だと知ったとき。
僕は……。


「強いものが弱いものを守るのは、義務であり責任です」

 凛と響く声にハッとした。
沢田綱吉がときたま見せる決意の篭ったあの目をしている。
その瞳はただの草食動物ではなくて、僕をワクワクさせるはずなのに。
君のその目、今は少し嫌いだ。

「元々、オレのせいでマフィアに巻き込んじゃったんですし。オレは、ちょっとは喧嘩とか強くなりました。だから、出来るならその力でみんなを守りたい」

 知っている。だから嫌なんだ。
「みんなを守る」とか言って、君はいつかあの空に溶けてしまいそうだ。
迷いの無い瞳で言ってのける沢田綱吉がいっそ憎らしい。

「独りよがりの偽善だ」
「雲雀さん、雲雀さんの風紀活動でも守られている人達がいるでしょう?」
「僕の知ったことじゃないよ、それは」
「でも、否定はできない。でしょ?ね?偽善でも、やらないよりはやった方がいいんですよ」

生意気な。

「そもそも、雲雀さんはどうしてそんなに群れが嫌いなんですか?」
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