□Dear My Home
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 ドアを開いた瞬間、側頭部を強打されていた。
殴られるだろうな、と予想はしていた。
だって綱吉は殴られてしまうくらいの事を、犠牲を彼に払わせてしまったのだ。
けれど予想していた事ではあってもその衝撃は凄まじくて、殴られた勢いで吹っ飛んでしまった。

「ねえ、納得のいく説明、して」

吹っ飛ばされてうずくまってる綱吉の上に降ってきた言葉。
それはお願いではなく命令だった。

「ひばり、さん」

転がった衝撃で口の中を歯で切ってしまって、錆ついた味が舌先に広がる。
少しもごついて名前を呼んだその人は、どんな顔をしていただろうか。



 知っている人間の方が少ないが、沢田綱吉と雲雀恭弥は従兄弟同士である。
沢田綱吉の母親と雲雀の母親が姉妹なのだ。
今となっては信じる人間なんていないだろうが、幼少期はそれはそれは仲の良い二人だった。
雲雀恭弥は綱吉にとってなんでもできる大好きな兄だったし、雲雀も綱吉の事を可愛がっていた様に思う。
 大きな家に住んでいて何でも出来る恭弥くん。
小さなころは泥んこで綱吉のヒーローだった。
雲雀は綱吉がそばにいることを許していたし、それどころか手を引いて歩き、共に風呂に入り食事をして一緒に寝た。

 それが、雲雀が中学に入る少し前に、ぐにゃりと二人の仲は変質した。
変質、というよりも大きな力で以って捻じ曲げられ切れた、と綱吉は思っている。

「もう、そうやって僕の後をついてくるの、やめてくれる?君は僕の従兄弟でもなんでもない」

 突然そうやって雲雀に言われてしまったのだ。
理由を綱吉は知らないが、きっと綱吉が雲雀に何かしてしまったのだ。雲雀が怒る様な事を。
だって綱吉はダメツナだ。雲雀が綱吉の事を疎ましく思ったって仕方無い。
 二人の仲は唐突に終わり、綱吉は雲雀に会いに行かなくなったし、雲雀も綱吉に会いに来なくなった。
雲雀は家から少し離れた名門の私立の学校に進学すると思っていたのに、結局地元の並盛中学に進学した。
意識的に、あるいは無意識に雲雀の情報を遮断していた綱吉は知らなかったが、雲雀は並中をあっという間に締め上げ、自らの支配下において、そこからじわじわと並盛町への影響力を強めて行った。


 そして二人の仲が断絶してから1年と少しが経ち、綱吉の元に漆黒の赤ん坊が家庭教師としてやってきた。
赤ん坊が連れてきた運命の嵐の中で、色んな事があって辛かったけれども、雲雀と新たな関係が出来て距離もまた少し縮まった。
それは綱吉を内心本当に喜ばせた。
 そんな中で飛ばされた十年後の未来の世界。
『雲雀恭弥』は『沢田綱吉』の近くにいた。
十年後も雲雀恭弥が、たとえ嫌々ながらであったとしても、もしくは何か別の事情があるのだとしても、沢田綱吉とつながりを持っていることが綱吉は心底うれしかった。
 けれど、そうやって出来た新しい関係すらもぶち壊しかねない事を、10年後の雲雀本人が告げた。
修行中に告げられたそれは。

「ああ、そういえば僕の生家、燃やされたよ。跡形もなく、ミルフィオーレにね」

 それは綱吉の内心の期待、少しでも雲雀との関係を修復したいという願いを打ち壊すには十分すぎた。
この時代の雲雀恭弥が何故それを綱吉に告げたのかはわからない。
事実として伝えたのか、何かしらの意図があったのか。
あっけにとられた綱吉に、雲雀はそれ以上何も言わなかった。
だから綱吉も何も聞けず、つまりそれ以上の情報を持っていない。
 雲雀のおじさんとおばさんは大丈夫だったのだろうか、なんて、綱吉には心配する権利すら無いのかもしれない。
だって、雲雀の家がミルフィオーレに焼かれたというのなら、それはボンゴレの、ひいては綱吉のせいだ。
自分のせいで他でもない雲雀にそんな大きな犠牲を強いてしまった。
だから、ミルフィオーレの基地で雲雀が入れ替わって、それからアジトに戻った今、綱吉は一人雲雀に謝りに来たのだ。

 巻き込むつもりはなかった。綱吉のせいではない。悪いのはミルフィオーレで、白蘭だ。
本当に?
そんなことはない。
だって綱吉が雲雀を巻き込まなければ、マフィアなんて守護者なんてダメだってちゃんと言っていれば、こんなことにはきっとならなかった。
 謝ったってどうしようもないのは分っていたし、雲雀が謝罪を受け入れるとも、綱吉に対して陳腐な慰めを口にするとも思っていなかった。
思ってなんかいなかったし、それを望んでいるわけではないけど、ただ綱吉は謝りたかった。これは綱吉のエゴだ。
全部承知で綱吉は雲雀のアジトを訪ねた。
だから、殴られるなんて予想していたし、雲雀は綱吉を殴ったっていいのだ。
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