□雪と君の真白
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お布団とはお友達。とくに空気が冷たいこの季節は一分一秒でも長く柔らかくて暖かいベッドでぬくぬく過ごしたい。
さらにさらに本日はお休みである。
学校と遅刻と怖い先輩なんていう恐怖の三連コンボがないのだから、お昼まで、それが叶わなくともこれまた恐ろしい家庭教師様のお小言が炸裂するまでは、ベッドという優しさに包まれていたい。
綱吉は常日頃怠惰なのに、今朝はなぜだかすっきりと目が覚めて、しかも声をかけられるより先にベッドから抜け出し、カーテンを勢いよくあけて窓の外を一望した。

「おぉ……」

この季節、日本列島の中央にどんと位置する山脈に跳ね返されて日本海側に留まるはずが、今回の雲と寒気はどうやら根性があったようで、高い山々を超え遥々と関東平野までやってきた。
そうしてやってきた雲から零れ落ちた雪は、夜の間中雨とは違う音階で綱吉の部屋の窓をたたき、降り積もって見慣れた景色を特別にしていた。

雪をもたらした雲はもう遥か彼方へと去ったのであろう。
今の空は晴れ渡っていて、昇りはじめた朝日を受けて雪がきらきらとしている。
ただ寒いだけの冬の日と違って、雪がそこにあるだけで、綱吉にはなんだか空気がいつも以上に清浄な気がした。

それで、なんだか急に会いたい人が思い浮かんで、そそくさと支度を始める。
今日は休日だけれども、お目当ての彼に会いに校舎へ立ち寄るならば制服がいいだろう。
まあ綱吉はよく補習にひっかかって休日出勤ならぬ休日出校しているから、慣れたもんである。

朝食をかきこみ、家を飛び出して、白い通学路を走っていくと並盛の中学校が見えてくる。
一面の白い風景に滲まない存在感のある黒を校門に見て、綱吉の心は躍った。

「ヒバリさん!」
「やあ、綱吉」

ぱたぱたと走り寄る綱吉に、雪道に慣れてないんだから危ない、なんてお小言をこぼしながらも、雲雀が嬉しそうに(あくまでも普段の雲雀と比較してではあるが)迎えてくれるのが綱吉は嬉しい。

「まったく。いつもは遅刻するくせに休みの日はこんなに早く学校に来るなんて、どういうこと」
「えっと……えへ」

そこはつかれると痛いところなので、強引に話をそらすことにした。

「ヒバリさんこそ、こんな校門のところで何やってたんですか?」
「うん。雪を近くで見ようと思って」
「はあ」
「今日は休日だけどもうすぐ運動部の奴らが練習に来るだろ?踏み荒らされて汚くなってしまう前にね」

雲雀が指差した先、並盛中学校の校庭は、まだ誰も足を踏み入れていないのだろう、それは見事な雪原になっていた

「たしかに、こんなに綺麗なのにもったいないですね」
「汚れた雪は見るに堪えない」

随分とばっさりと切り捨てた。が、いかにも雲雀さんらしいなあ、と綱吉は感心した。
潔く、清々しく、そしてちょっと寂しくなるほどに。

「……雪も自分で降る場所を選べればいいのにね」
「どこだったらいいと思います?」
「山奥の、人が立ち入らないようなところ」

即答だ。
そのままグラウンドの雪を見つめている雲雀は、どこか遠くを見ているようだ。
ここでないどこか。
山の奥深く、人里離れて静かな場所に降りしきる雪を。

それで綱吉は、もうなんだかどうしようもない気持ちになって、雲雀の腕に縋り付いた。
急に飛びつかれた雲雀はというと、きょとんとしている。
綱吉は、何度か口をぱくぱく、と開け閉めしたものの言葉が見つからなくて、とうとう俯いた。
つむじのあたりに、雲雀の視線を感じてじりじりする。

何を言っても間違いな気がするけれど、何か言わなくてはならない。
気持ちだけは焦るのに、綱吉はこんなときどうしていいか分からなくて途方に暮れてしまう。
突如発生した沈黙の中先に動いたのは雲雀だった。
綱吉の手を取ってきゅっと握り、繋いだ手を引いて雲雀は歩きだす。
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