□CAKE☆CAKE
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いかにもヨーロッパのお城のものであると誇らしげに全身で主張している沢田の背丈ほどもある時計をちらりと見れば、11 時をすでに回ったところである。
外はもう暗くて、ボンゴレの城を囲む森たちは、ひっそりと静まり返っている。
仕事がひと段落した沢田は、空腹を訴えてきた腹をシャツの上から撫でた。
この時間ならボンゴレの厨房ももう休息に入っているだろう。
ボスである沢田が頼めば何かしら用意してくれるであろうが、いつまでたっても小市民で自分勝手に命令することに抵抗があるため、却下。
どうしたものかと考えていると、執務室の横にある自分の仮眠室に備えられている冷蔵庫に入っているケーキを思い出した。

ケーキを用意したのは、ほんのちょっとした思い付きだった。
今日は5月の5日で、偶然雲雀恭弥がボンゴレに顔を出すことになっていた。
と言っても、そこは雲雀恭弥。
気分が乗らなかったり、また道中雲雀の興味を引くようなものがあればそちらに飛んで行ってしまったりで、来ないことも十分考えられる。また来る時間も定かではない。
けれど、せっかくその日に顔を合わせることになる予定なのだ。
なんだかんだ雲雀は沢田の守護者をやっていてくれて、確かに彼のあの破壊魔的性情によって沢田及びボンゴレがそれはもう甚大な被害をこうむることはあるが、それでもケーキくらい用意して日頃の感謝を示してもいいだろうと沢田は思った。
それくらいなら、雲雀だって受け入れてくれるんじゃないかな、とも思って。
それに、当日雲雀が来なくても、ケーキであれば翌日に何人かで分ければ問題ない。
というわけで、沢田は雲雀のバースデーケーキ(ホール)を準備していたのだ。

けれど、結局、今日も雲雀は来なかった。
ケーキは冷蔵庫で眠ったままである。
十代目として見た目に気を遣えとのリボーンのお達しであるが、一日くらい夜食に生クリームたっぷりケーキを齧るのもいいだろう。
と、ケーキと同じくらい自分に甘い考えで、沢田はいそいそと準備を始めた。

飲み物は、と考えて、こんな時間にカフェインを取っては眠れないしと理屈をこねて酒も用意する。
なんだか一人でお祝いというのは寂しいので、グラスとお皿にフォークも二セットずつ。
今この地球のどこで何をやっているんだか分からない本日の主役の分も。
そうして、誕生日じゃなくてもいつだって自分が主役な彼のために、目の前の空席を埋めてくれないあの人に、沢田は一人、こっそりとお祝いの声を上げようとしたときだった。
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