□The Lion Sleeps Today
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空を見たいと思ったのだ。
昼休みももうすぐ終わってしまうから、その前にとトイレへ行ってまた教室へ戻ろうとしているそのときに、ふっと思ったのだ。
だからそのままその足でフラフラ階段を登っていた。
なんてことはない。
リボーンが来るまでは怠惰の虫をお腹に飼っていた綱吉は、結構サボったりお家に帰っちゃったりしていたのだし。

屋上に続く階段の電球は切れていて周りに窓もないから暗いし、掃除班がサボっているのか少し埃っぽい。
そしてそんな階段の最後の段を登って突き当たりの重い鉄製の扉をドアノブをくるりと捻って押し開ければ、そこには静かな屋上が待っていた。

「……寒っ」

ブレザーを教室に置いてきてしまった綱吉は、セーターの袖口を引っ張って手の甲まで覆い隠し、ふるりと一度身を震わせた後、屋上へと踏み入った。
まだまだ冬のこの時期は、日差しがあってもポカポカというには程遠い。
それでも日陰に立って氷のそばにいる心地を味わうよりはとよたよたと歩き出す。目指すはフェンスのそば。フェンスに背中を預けて一息つこうと思ったのだ。
思ったのにそれは叶わなかった。

「んなっ!?」

じゃりっと金属がこすれる音を鳴らして飛来したチェーンが綱吉の右足首にぐるぐるっと巻きつく。
そのあとぐっと鎖に引っ張り上げられて、体が反転して宙に浮く。
一本釣りの様相で数秒間強制空の旅を味合わされたと思ったら、次の瞬間には背中を床に叩きつけられていてぐえっと潰れたカエルのような悲鳴をあげると同時に首元に銀色に光る金属の棒を突きつけられた。
見覚えのあるこの武器の名はトンファーだ。
そして視界いっぱいのワイシャツと黒の学ラン、端の方に腕章の赤。

「なんだ、君か」
「ヒバリさん!?」

なんだ君か、なんて、もしかしなくても確認するより先に攻撃を仕掛けていたのか。
ツッコミも口には出ない。だって冬の空気に十二分に冷やされたトンファーが、首元で元気に自己主張中だ。
雲雀は屋上の入り口から死角となる場所にいた。そこにのこのこやってきた平和ボケの綱吉をとりあえず捕縛したのだ。

床に背をつけたままホールドアップの姿勢で微動だにしない綱吉のお腹のところに馬にでも乗るように跨っている雲雀恭弥は、まじまじと沢田綱吉を見つめる。
沢田綱吉は今日も茶色い爆発頭にふくふくほっぺは血色も良く、どうやら体調は良好のようだ。
元気なことは良いことだ。戦ってくれたらもっといいのに。
なんて雲雀が考えているとは露ほども知らない綱吉は、今の状況をどうにかしようと呼吸を整え口を開いた。

「ヒバリさん、あの、上からどいてください」
「やだ」
「んなっ!?あ、あの、打ち付けた背中と頭が痛いです……」
「そう、ごめんね?」

少しも感情のこもっていない謝罪だ。絶対雲雀は悪いとは思っていない。

「小動物、今日は一人だね。群れてないことはいいことだよ」

ちょっとご機嫌で鼻歌でも漏れてきそうな声音で雲雀は言う。
ご機嫌なのは良いことだ。お腹の上からどいてくれたらもっといいのだけれど。
さっき却下されたばっかりだし無理そうだけど。
それでも雲雀のご機嫌なんてちょっと珍しいので綱吉はあれ?と不思議に思って、なんならちょっとした疑問について質問したい。
してもいいかな?と伺うようにまだ自分んのお腹に馬乗りの風紀委員長様を見上げた。

「あの」
「なに」
「えーっと」
「はっきりしないのはいただけないね」
「はい!すみません!」
「うん。で、なに?」

まあ自分でつくったきっかけだけど、綱吉に逃げ場はないみたい。
まあ答えてくれたらラッキーだし、ダメでも一発軽く殴られるだけで済むだろう、多分。

「あ、あーあの、小動物ってオレのこと呼ぶの、どうしてですか」
「だって小動物でしょ、君」
「あ、はい、そうですね!」

答えてくれたけれども、全く答えになっていない。
下2桁揃えて宝くじの五等が当たるくらいのラッキー、とは言っても連番とバラで1枚300円のクジを20枚6,000円分買ったのに当たったのは3,000円みたいな。なんというか、コレジャナイ感で、でも外したわけじゃないという絶妙な感じを味わっている綱吉を、雲雀はじいっと見つめた。
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