□A Nightmare Dressed Like A Daydream
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放課後、雲雀は風紀委員長の日課として人気の少なくなった学校を巡回していた。
放課後の学校はとても良い。雲雀のお気に入りの時間である。
つい先ほどまでそこに人がいたことを如実に語る人間の気配の残滓は、群れ嫌いの雲雀を苛立たせることはせず、それどころか群れ特有のかしましさが薄れていくまさにその様子が学校という場所の息吹を感じさせる。
遠くグラウンドで響く運動部の声が、生徒数の減った校舎内で響いていく。
昼間の喧騒が少しずつ覚め、校舎の中で喧騒と静寂が混ざり合いながら夜を迎える準備を整えていくさまは、今日も一日並盛の風紀を守ったという雲雀の矜持を労ってくれさえした。
そんなお気に入りの巡回の中、雲雀はとある教室でふと、足を止めた。
中には少女が一人だけいて、窓際の席の机に鞄をおき、その上に頬杖をついて窓の外を見つめている。
冬の冷たい空気の中で、郷愁を誘うオレンジ色の夕日に照らされたその姿は、とても絵になった。
美しい絵だと万人が言うだろう。ありきたりである、と言うものもいるかもしれない。
けれど少女の姿はどことなくさびしい。いや、寂しいだけでなく、物悲しかった。
だから雲雀はその少女が泣いているのではないかなんて不思議な事を思ったのだ。

その少女、『沢田ツナ』。
雲雀も巻き込まれたボンゴレとか言うイタリアンマフィアの関係者。
とはいっても、直接関係しているのは彼女の双子の姉の『沢田ナツ』の方であった。
沢田ナツが巨大マフィアボンゴレの10代目に指名され、そのせいで並盛の風紀を著しく乱す事件がいくつも起き、並中はなんども校舎を破損され、さらに雲雀までもが勝手に守護者だとかよくわからないものに勝手に任命された。
まったくもって遺憾である。
その苛立ちを雲雀は自身の家庭教師だとかほざいているディーノをぐちゃぐちゃにすることで晴らそうとしているのだが、なかなか果たせていないからまたストレスがたまる。
唯一よかったことと言えば、ボンゴレとやらの騒動に巻き込まれたおかげで幾人かの強敵と相見え、彼らと戦闘して咬み殺せたことくらいだ。

それから沢田ナツ。小動物の見た目のくせに戦えるものがいるというのは、雲雀にとってとてもうれしい発見だった。
肉食獣と一線を画す彼女の空気は居心地がよいし、彼女の美しい炎は見ていて飽きない。それどころかもっと見ていたいとさえ思う。
まあ、彼女のこともいずれは咬み殺してやろうと思っているけれど。

しかし、今雲雀の視線の先にいる少女、沢田ツナは、見た目の通りか弱い草食動物で、闘う事なんて知らない。
沢田ナツの妹という存在を情報としては知ってはいたが、戦えもしないものに雲雀は用などない。
雲雀も勝手に巻き込んで飛ばされた『未来』とやらには、笹川の妹や沢田家に居候しているという小さいもの達も来ていたようだから、おそらく沢田ナツの妹の沢田ツナもいたのだろう。
もしかしたら他の戦いの場にも、一応の関係者としていたのかもしれない。
けれど雲雀はそのとき沢田つなが何をしていたか、ましてやどんな表情であったかなんて全く記憶になかった。

なにせ沢田ツナは雲雀から見ればつまらない生き物だ。
戦えない草食動物に払う注意など持ちえない。
だから沢田ツナについて雲雀の記憶に何も引っかかっていないのは至極当然のことなのだ。

それがどういうことだろう、先日一人校舎裏でうずくまる沢田ツナを見てからというものの、どうしても彼女が気にかかる。
雲雀はあれから何度も何度もあの日のこと、彼女とのやりとり、彼女のこと、そして彼女のせいで自身の中に巻き起こった何かについて考えている。
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