□俺はスーパースペシャルアンラッキーマン
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 沢田綱吉はツイてない。つまり彼はとってもアンラッキー。
 沢田綱吉がどのくらいツイていないかというと、まず星周りが悪い。必ず貧乏くじを引く。それは彼が小さなころからだ。
 買った商品が初期不良品だったのなんて数えきれないし、犬の糞も何回も踏んだ。雨降ってるか確かめるために出した手の上にハトが糞を落としていったことだってある。
自転車を飛ばせば必ず釘を踏んでパンクだ。

 そんなアンラッキーマン沢田が引いた貧乏くじのなかでも特大なのが、『ボンゴレマフィアのボスの後継者』というものだった。
 ボンゴレは歴史と規模とプラスいろんな部門及び総合で堂々ナンバー1。ドンの前には法王さまだって跪く(かもしれない)。
 そんな凄そうな地位に選ばれた、昨日まで一般家庭で育つ中学生だった沢田のことを、シンデレラボーイだなんて思う?
 甘い。
偉い、なんてったってやっぱり安心と信頼のヤバい職業、それはマフィア!

 そもそも、その地位だっていわく付き。
沢田の前のボンゴレ十代目の候補者たちは、抗争中に撃たれて死亡。そのまた次も海に沈められて死亡。さらにさらにその次も、いつの間にか骨になって死亡。
「ボンゴレもそろそろやべーんじゃねぇの?」
とイタリアの裏の巷で噂され始めたころに指名されたのが沢田綱吉だったのだ。
 いわくありの地位に東洋の端っこジャッポーネのガキが指名された。
マフィア界の後ろ暗い人たちは思った。
「こりゃ死んだな」
と。
偉大なるボンゴレの手前こっそりとではあるが、はっきりとした確信であった。



・・・

 もうもうと上がる粉塵の中、その中心に近い場所で重力を無視した特徴のある髪型のシルエットが浮かび上がる。

「げほっげほっ、うぅっうぇっ」

 ぴょんと煙の中から飛び出した沢田は、やっと息がすえるとばかりに半分以上むせながら涙目になりつつ大きく呼吸をした。
 この日のために誂え、きちんと流行も踏まえた某イタリアハイブランド製の最高級の純白のスーツは埃にまみれているし、あわせて作ったシャツも、ネイビーに銀糸がアクセントになっているネクタイも既にボロボロだ。
 勝手に用意されている専用シャンプー及びリンスで整えられている髪だって無残なものである。
 隣では沢田の相棒のナッツがふわふわ自慢の鬣に埃をくっつけまくって悲しい顔で「がぅ〜」と泣いている。

 1人と1匹はものすごく酷い姿だが、とりあえずは自分も相棒もなんとか無事だったことに安堵して、はぁー空気っておいしい、生きているって素晴らしい、なんて考えながら、沢田はだいぶ見晴らしの良くなった元・パーティー会場のとある古城跡地を見回した。
目の前には秋晴れの美しい青空とよく手入れされた緑の芝生が美しい庭園、そして瓦礫の山が広がっている。

「……よし!」

 半目になりそうだったので何も見なかったふりをして、気合を入れ直して向きを変えると、ちゅん!という甲高い音が鳴って鼻先を何かが掠る。
何か、なんて言ったけど、その正体を沢田は知っていた。
一瞬遅れて鼻の上の皮膚が裂け、そこからつっと真っ赤な血が流れ落ちる。
射撃である。それも沢田の命を狙っているやつ。
 ひぃっ!と阿鼻叫喚。沢田は既に涙目になっているナッツを両腕に抱え、手近にあった大きな瓦礫の背後に飛び込んだ。
 
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