□グンナイ・ダーリン
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次に綱吉が目を覚ました時、部屋は入り口脇のサイドテーブルにのっかった小さなティファニーランプがついているだけで薄暗い。
カーテンも閉まっているから夜になったのだろう。
ずっと寝ていたからか薬がきいたからか、先ほどまでの寝苦しさや暑さは消えていて少し体も軽くなっていた。
寝汗でぐっしょりだった寝間着も青からライトグリーンに変わっていることからだれかが寝ている綱吉を着替えさせてくれたのだろう。
下着まで変わってることになんとも言えない気持ちになりながら、時間を確認しようとしたとき、ドアが少し開いて廊下の光が差し込んできたので、綱吉はぎょっとして咄嗟に寝たふりをした。
細く開いたドアからしゅるりと部屋に侵入し、毛足の長いアイボリーの絨毯を音もなく踏みしめてくるよく知った気配に、綱吉は寝たふりが正解だったと悟る。
綱吉は今日もやっぱり自分の勘に感謝した。
感謝しながらも頭の中では、普段は全然寄りつかないくせ何もこんな時にだとか、久しぶりの恋人の来訪なのに風邪ひいちゃったなあだとか。
ぐるぐる考える綱吉を無視して気配はベッドの枕元までくると、汗でぺたりとはりついている綱吉の前髪がついついっとよけられた。
さらにじっと綱吉を見て笑っている気配。綱吉はびびびと震えあがった。
(い、一体何をするつもり……でしょうか……ヒバリさん……)
心の中での問いかけに答える声は無し。綱吉的に緊迫の一瞬は引いた汗がぶり返してきそう。
雲雀恭弥はなにがあたって雲雀恭弥で、そこらへんは綱吉だって信頼しているのだけれども、同時に何するか分からないっていう信用もしているのだ。
ひさしぶりに顔を見せに来たんだからちょっと手合せ、なんてことになったらたまったもんじゃない。
ベッドですることの方も今日はもうダメ。
ダメったらダメ。と雲雀に納得させる自信がない綱吉は、ここはもう何があってもタヌキ寝入り決定だ。起きたら危ない。
寝たふりを決め込んだ綱吉の横でベッドが一人分重くなる音がして、新たな重さの方に傾いたスプリングに少し身体も傾いた、布団の中にもう一つ滑り込んできた身体がある。
いよいよぎょっとして固まった綱吉の腹に腕が回され、背中に硬い腹筋が当たり、シーツを握りしめていた指先は解かれて、雲雀の指が絡められる。
首元にかかる吐息がくすぐったいのに優しい。
隣で寝ている人の吐息が寝息に変わったところで綱吉はふぅっと息を吐いた。
触れられているところがじわじわ温かくなってきている。
隣で眠っている人がいるので、うるさい悪夢も無視できそうだ。
そういえば、小さなころに急に取りつかれた悪夢に泣いた綱吉の元にもいつの間にか母親が来て抱きしめてくれて、それでタオルをかえてくれたら眠れたのだった。
それで起きた綱吉は恐竜ファンをやめてかわりに将来の夢はロボットになった。
かっこよくて強くて恐竜にだって勝てるやつ。
「あ」
忙しくってぱたぱたしていておまけに風邪で寝込んでいたのだけれど、今は5月の初旬だ。
雲雀が綱吉の元に来たのだって偶然じゃないだろう。
綱吉はそっと身体を反転させて、隣ですやすや夢の中の人の寝顔を凝視する。
この人なら、恐竜に勝てるロボットにも勝てそうだ。
今晩だって狸寝入りの綱吉のこと起こしてくれてもよかったのに。
「しょうがないなぁ」
なんて一人呟いて、ふへっと笑う。
それから、額にキスをすると明日目が覚めた時に隣で眠る人におめでとうを言うために、どうか寝ている間に世界が滅んでいない様にお願いをすると、聞こえる吐息に自分の吐息を合わせて眠りについた。


End
グンナイ・ダーリン
2017.6.3
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