□ようこそ雲雀医院へ
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「やっぱり他のトコのがいいよ……」

怪我した腕を消毒されながら絆創膏の貼ってある鼻をすんと鳴らして小さな声でモゾモゾと呟いた炎真の言葉に沢田はへにょんと眉を下げた。

「ごめんね、エンマ。……でもオレ、手当は上手いって言われてるから……」
「ち、ちが!そのことじゃないよ、ツナくんが、」
「オレ?」
「……もっと……キレイなとことかに、勤めたらいいのに」

ああ、と内心納得する。
確かに沢田が勤めている病院は、一言で言えばボロい。
レトロな建物、なんて言ってみれば聞こえはいいけれど、平屋のモルタルの壁はクラックが入っているし、ドアもキシキシ、室内は妙に薄暗いし、窓枠にはめ込まれたガラスだって薄い磨りガラス1枚だから冬なんか寒くて仕方がない。
中学生の炎真が文句を言ってしまうのも仕方ないななんて思うから、沢田は年下の友人を見ながら、父親に対して反抗期真っ只中にある子供を見るような苦笑をこぼした。

「でも、オレ、ここくらいしか雇ってもらえないし」
「それ、なんかおかしいよ!絶対」

おかしいと言われても実際そうなのだから仕方ない。
そもそも沢田が今看護師になれて、さらに働く場所があること自体奇跡なのだ。

中学時代ダメツナだった沢田綱吉は、学校の進路選択で自分の将来についてぼうっと考えて、で、出来ることなら誰かの役に立つ仕事したいなあ、なんて漠然と思った。
漠然と思った時、ちょうど沢田は風邪をひいていた。馬鹿は風邪ひかないなんて嘘である。
風邪をひいて病院に行ったら、明るい髪色でショートカットのよく似合うめちゃくちゃ可愛くて優しい白衣の天使笹川さん(ネームプレートを見た)に「こんなに熱があって、辛かったね」とニッコリ微笑んで自分の茶色い爆発頭をなでなでしてもらったりした。
思春期の少年沢田は、それで頭も心もグラグラして、看護師っていいなぁと思った。
漠然と思ったことを、熱と初恋に浮かされた頭でもってそのまま感動したがりな母親に伝えたら、案の定いたく感動され、驚きのスピードで家庭教師をつけるという行動に出られた。
で、その家庭教師がまた酷かった。はちゃめちゃスパルタだったのだ。
彼に文字通り鞭打たれながら(ときには沢田は家庭教師に銃を撃たれたのだが、これはほとんどの人間が信じてくれないので、沢田は他人に言うのをやめた)ハイパースパルタレッスンを受け、高校受験を乗り越え、さらにその次の受験も一浪してしまったがなんとか突破して、看護科に入るのに成功したのだ。
(備考。浪人時代のカテキョーのシゴきについてはあんまりにもあんまりすぎて、沢田は思い出そうとすると頭が割れるほど痛み、悪寒とともに身体が小刻みに震え、鼻水が垂れ始め、お腹を壊してトイレの住人に成り下がり、蕁麻疹が出て、最悪の場合死に至りそうになるので思い出してはいけない。だから沢田のことを想うなら、決して浪人時代のことについて沢田に話を振ってはいけない。備考終わり。)
なんとか入学した学校も、ヒーヒー言いながら死ぬ気で卒業&国家資格を取得できた。
快挙である。沢田綱吉の人生的に。
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