□超幻想を消せ
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全身を包んでいた煙が晴れて、ようやく見えた景色に雲雀は瞬きをした。
しかし目の前に広がっているのは、特に感慨を呼び起こすような大層な景色ではなく、LEDで明るく照らされている変哲のない部屋であった。
ただ、壁に掲げられた大きな風紀の旗と、並盛全域の航空写真がこの部屋の主が誰かを物語っている。
先ほどまで『雲雀』はここに座っていたのだろう。
椅子はひじ掛けのついたこげ茶色の革張りでゆったりとしており、深く腰掛ければ思案するのに向いているだろう。
目の前にあるずっしりと重たげな天然木でできた大きな執務机には、使いこまれた万年筆が転がっていて、さらに机の右手を占拠しているデスクトップは何かをモニターに映し光を放っているし、もう11月であるが室内は空調が効いていてちょうどよい温度である。

「ふうん」

ひとり呟いて、もう一度あたりを見回し、不機嫌に口角を下げた。
学校に乱入したもじゃもじゃ頭の子どもが放った弾をわざわざ雲雀が避けないでやったというのに、つまらないことだ。
被弾した10年バズーカなんていう怪しげな道具は、未来を見せる。
雲雀は自分がつくる以外の未来なんて興味はない。けれど、一度行った世界、仮死だった人間、そういったものの『その後』に少しは興味があった。だから確かめに来た。
だが、飛んだ先が10年後の雲雀自身の執務室というのなら、誰かに会うということもないだろう。つまらない。

(戻るまでどれくらいだったかな……)

大きくあくびをした目が、なんとなく捉えたデスクトップには、何かの資料、おそらくカルテのようなものが表示されている。

(性別男性、年齢24、虹彩の色アンバー、髪の色ダークブラウン……)

ぼんやりと眺めたそれが雲雀の知る一人の人間を指し示しているようで、自然と見る目に力が入った。
カルテは髪の色や目の色から始まり、年齢、身長体重、血圧脈拍数、赤血球や白血球の数、さまざまな物質の血中濃度、内臓のレベルなど詳細にわたっている。
こんなに微に入り細を穿つようにメディカルチェックを受ける人間なんて限られている。そして雲雀の脳裏に描いている人物はまさにその限られた人間である可能性が非常に高かった。
そして何より決定的なのが、0をいくつも重ねた大きな数字だった。死ぬ気の炎の測定値だ。炎の種類は大空。
これほど高出力の純度の高い大空の炎を出せる人間を雲雀は一人しか知らない。

「『沢田綱吉』……」

ぽつりとつぶやいた声がそっと響いて、液晶画面に吸い込まれていった先に表示される細かいデータ、『沢田綱吉』が生きている断片その一つ一つを雲雀は食い入るように、時間が来るまで見つめていた。
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