頭文字D

□友達になりましょう
1ページ/10ページ

12月23日の土曜日…世は俗に言うクリスマスイブイブだ。街はイルミネーションで赤と緑、黄色で鮮やかに彩られ、空はずっしりとしたグレーの雲で覆われホワイトクリスマスになりそうな雰囲気になっている。
拓海は朝の配達を終わらせてから冷えた手足を温める為に炬燵に入り込んでいた。テレビは毎朝同じチャンネル。台所では父親が味噌汁を作っているのか味噌のいい香りがする。
中身は決まって豆腐とわかめ。漬物に海苔と厚焼き卵に白ご飯。たまに魚が出る時もある。
出来上がったから運べという父親の声に渋々炬燵から抜け出した拓海は寒い寒いと言いながら父親からお盆を受け取り、炬燵の上に順番に並べていった。
全て揃うと2人で静かな朝食を取る。
父親はご飯を食べながら新聞を読みつつニュースを聞くという器用な特技を毎日披露していた。
拓海は朝食を綺麗に食べると食器を流しに持って行き、小鍋に水を入れて火にかける。
コップを2つ出してインスタントコーヒーの粉を入れる。ちょうど沸いたお湯を注ぎ父親はブラック、自分の分にはミルクと砂糖を一つづつ入れ炬燵のある部屋に戻った。
まだ途中の父親の前に淹れたてのコーヒーを置き、自分も炬燵に足を突っ込んで飲み始めた。
「あぁ、そうだ拓海。お前学校終わったら出かけるんだったな。」
新聞から顔を上げた父親、文太は今思い出したように拓海の顔を見た。
「そうだけど…何?」
眠そうな顔のまま拓海も返事をする。
「人様の家で泊まらせて頂くんだ。豆腐と厚揚げ持っていけ。」
「いいよ。豆腐は…」
「いいから持っていけ。」
がんもも付けてやろうか?と細い目を更に細くして少し意地笑う文太を、拓海は横目で睨みながらチェッと舌を鳴らした。
ー最近学校の近くにオープンした和菓子屋で買って行こうと思ってたのにな…
開店当初、店頭で自慢のどら焼きですと試食を行っていたのを樹が目ざとく見つけ、その時一緒に試食をした事があった。生地はモッチリしてて、中の餡子は程よい甘さでくどくなく、思わず五個入りを一箱買ってバイト先に持って行った位だ。
ーあれ、涼介さんに食べさせてあげたいんだよなぁ…
チラリと文太を隠れ見て両方持って行くかと決める。
その時テレビから天気予報を知らせるアナウンサーの声がして拓海は炬燵から立ち上がる。そろそろ樹がやって来る時間だ。
この季節朝の着替えは辛い。前もって自室から階下に下ろし、ストーブの近くで温めていた学ランに着替える。
底冷えしている洗面台で髪に軽くブラシを入れて歯を磨く。
財布を開きどら焼き代を確認した後、着慣れて自分の体に馴染んだダッフルコートを羽織っていると「たぁくみぃ〜」と聞き慣れた樹の声がした。
「じゃあ行ってくる。」
そう残し、店舗兼玄関の扉を開けた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ