頭文字D

□コーヒーとチーズケーキと色ボケ男
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「ホームページ、出来上がったんだって?」
持ち上げていたコーヒーカップをソーサーに戻してから一息をついて、涼しげそうな目をした男は目の前に座る人の良さそうな男に短く「ああ…」と頷いた。
古い喫茶店の一角で2人の男が対峙して座ったいた。
店舗の中には歳のいった老夫婦が一組とくたびれたサラリーマン、そして彼ら2人しか居ない。
涼しげそうな目をした男は赤城レッドサンズの創設者高橋涼介で、もう片方の人の良さげな男は涼介と付き会いも長く、レッドサンズの外報部長の史浩だ。
人目を引くほどの美貌をもつ涼介が、今時のオシャレなカフェに入ると間違いなく周りからの不躾な視線が送られてくる。
それに多少なりとも鬱陶しさを感じてたのはあるが、元々涼介はこういった落ち着いた昔ながらの喫茶店を好んだ。
扉を開けるとカラカランと鳴るベルにコーヒー豆を挽く音と漂う淹れたてのコーヒーの薫り。カウンター越しに声をかけてくる初老のマスター。
落ち着いて一息入れることのできる場所の一つだ。
2人の前にはコーヒーとチーズケーキのセットが並んでいた。
滅多に甘いものは食べない涼介だが、ここのチーズケーキは甘さも控えめで好みなのもあり、必ずコーヒーと一緒に注文している。
史浩曰く、涼介のお勧めらしい。
「見ても構わないか?」
その言葉が来ると分かっていたのか、涼介はホームページのアドレスを書いたメモ用紙をジャケットの内ポケットから出して史浩の前に差し出す。
それを受け取り、横に置いてたノートパソコンを出すと起動させてインターネットに繋ぐ。
その一連を見ながら涼介はチーズケーキを一口食べる。
カチカチとキーボードを打つ音がしてしばらく史浩は画面を見ていた。
「少し…いや、かなり挑発的だな。」
一息吐き史浩はコーヒーを飲んだ。
「これ位でいいのさ。そうでないとプロジェクトを立ち上げた意味が無い。」
ふーんと唸りながら画面を見入る。プロジェクトDという見出しの下に挑発する文面。そしてヒルクライムFD、高橋啓介。ダウンヒル86、藤原拓海と車の写真と名前。そして挑戦状という項目だけ書かれていた。
いたってシンプルだ。
挑戦状をダブルクリックするとメール作成画面に切り替わる。
これで先方と連絡を取り合うということだろう。
前の画面に戻し腕を組んで背凭れに身体を預けた時、まだ下にスクロール出来る事に気づいた。
何も無いだろうとは思ってはいたが、何と無く指を伸ばし下に下げると、防壁と書かれた項目がでてきた。
「涼介、この防壁とは何だ?」
史浩がホームページを見ている間にメールを打っていた涼介が顔を上げた。
その顔は隅々までよく見ましたと言わんばかりだ。
「言葉の通りさ。」
「防壁が?」
「俺達が遠征すればそこを狙ってバトルを挑んで来る奴らも居るだろう。そういった輩の為の所だ。」
防壁と記された所をダブルクリックすると別画面に切り替わった。
黒いGTRのテールランプとRのエンブレムが表示され、その下には群馬の防壁と書かれ、更にその下に連絡先と書かれた項目があった。
「これは…まさか、妙義ナイトキッズの中里か!」
「ああ。本人に連絡が直接行くように設定してある。」
「おいおい。良いのかよ。」
「何がだ?」
「啓介が何て言うか。」
あいつのGTR嫌いは知っているだろう?とコーヒーカップを持ちながら史浩は苦虫を潰したように顔を顰めた。
史浩の言葉に少し不思議そうに眉を片方上げた涼介だったが、それは大丈夫だと元の涼し気な目元に戻って呟いた。
「なぜ。」
「…お互いが話し合ってみたらウマが合ったんだよ。」
チーズケーキも食べ終えたので涼介は灰皿を引き寄せてタバコを口にする。
「それはそうにしてもだ。啓介はこの事を知っているのか?」
「どの事だ?」
「形は違えどプロジェクトに加担している事をだよ。」
ジッポライターを擦ろうとしていた涼介の手が止まった。マジマジと史浩の顔を見て眉間から力を抜く。
「忘れていた。」
「えっ?お前らしくないミスだな。」
史浩はは椅子からずり落ちそうになったが、なんとか脚と腰に力を入れて踏みとどまった。
「ここの所レポートで忙しかったからな。」
「それでも多少の休み位はあるだろ?」
「その時は別件でな…まぁ、中里から伝わってるだろう。」
少ない休みは拓海とのデートに注いでいたことをは口には出せず言葉を濁した。
今度こそライターを擦ってタバコに火を付ける。
「うーん。俺はいってないと思うな。中里ってそういった所はスジを通す奴っぽいだろ?お前が創設者なら創設者が伝えるべきだとあいつは考えるんじゃないのか?」
言われて確かにあいつならそうするかもしれないと、カップに残っているコーヒーを眺めた。
「まぁ、後で中里に確認の電話をいれておくことにするよ。」
「その方がいい。」
肩の力を抜いた史浩は疲れた、とばかりにまだ食べかけだったチーズケーキを一口食べた。
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