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□日向誕生日おめでとう
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「ショーヨー!」
大好きな部活開始の時間より三十分早く部室から第二体育館へ歩いていた日向と影山の背中に声がかけられた。
足を止め振り返ると、前髪だけ色の抜けた自分より数センチ小さな先輩が小走りで寄ってくる。その後ろをニコニコと怪しい…もとい、優しい笑顔でついてくる大きな先輩。
二年の西谷と三年の東峰だ。
「ノヤさん!旭さん!ちわーっす。」
「ちわっす。」
「おっす。」
「おっす。元気だなぁ。」
「そりゃあ大好きな部活っスから!」
エヘヘと笑っていると、西谷が肩から下げた愛用の赤いバッグから紙包みを引っ張り出し、日向の前に差し出した。
淡い水色の包装紙にオレンジ色のリボンで不器用に結ばれたそれは、見た目からしてプレゼントのようだ。
「翔陽は今日誕生日だろ。おめでとう!これ、俺と旭さんから。」
「誕生日おめでとう。」
「おおおおお!あざーっす!」
両手で受け取る。重さは殆ど無い。厚さは数ミリ。シングルCD位だ。
「開けてもいいっすか?」
「おう。」
「喜んで貰えると良いんだけど…」
戸惑った風に東峰が縮こまると、大丈夫ですって!と西谷が丸まった背中をバシーンと叩く。良い音がした。
カサカサと音を立てて包装紙を開けると、中からケースに入った何も書かれてない真っ白なDVDが出てきた。
「帰ってから楽しんでくれよ。」
東峰の大きな手のひらが日向の頭をポンポンすると、さぁ、早く着替えてストレッチしましょう!と西谷がその手を取り部室に歩き始めた。
「本当あの二人仲良いよな〜羨ましいなぁ。」
「んー。つか、日向!お前今日が誕生日だったんか?」
「お?おお!」
しまった…と口の中で呟き影山が派手に舌打ちすると、日向は条件反射でズサッと音を立てて一歩後ろに下がった。
「この前スガさんの誕生日の時に俺も近いって話しただろ〜」
すっかり忘れていた。いや、正確に言うならば、プレゼントは買っていたが、日にちを忘れていたのだ。
「ま、トスいっぱい上げてくれたら忘れていた事位許してやるよ。」
上から目線に思わずカッとなってしまい日向の頭を鷲掴みしてしまった。


部活が終わると全員が日向に坂ノ下で食べ物を奢った。
肉まん、ぐんぐんバー、ガリガリ君…は今食べながら…自転車の前カゴに入れてホクホクしていると影山が家に寄ってくれないかと提案して来た。
一山越えて家に帰れば夕飯、風呂、そしてそのまま布団にダイブして寝てしまうコース。西谷と東峰から貰ったDVDだって、きっと妹に邪魔されて落ち着いて観れないだろう。
じゃあこのDVDも観ていいか?と確認を取ると影山は頷いた。
部屋に通され、早速DVDを取り出す。
デッキに入れて再生を押すと試合中の賑やかなバレーコートが映し出された。
ホームビデオだろうか。時々ブレながら烏野高校の背中を写している。
烏野のベンチには歳のいった監督と見たことのない顧問が座っている。どうやら古い映像のようだ。
しばらく見入っていると10の背番号を背負った小さな選手が飛んだ。
「小さな巨人だ!」
咄嗟に日向が叫ぶ。
憎い誕生日プレゼントだ。こんな凄いものを先に出されては自分の用意したものが霞んでしまう。
影山はコッソリ舌打ちした。
スッと画面が左にスライドして見たこと無い…だけど何処かで見たことのある男の横顔が映る。高校生位だろうか。そこに歓声とは違う音声が入っていた。
『どうだ?旭…』
そこで画面がプツリと消えた。
真っ暗な画面に日向と影山が映る。瞬間日向が「おおおお!」と声を上げた。
「今の旭さんだ!」
「とても中学生には見えないな。」
本人が聞いたらきっとガラスのハートはクラッシュだ。
「でも、すっげー!小さな巨人だぜ!もう二度と観れないって思ってたのに!」
目をキラキラさせて、もう一回最初から観ていいか?と影山にお伺いを立てる。こりゃダメだ…と。肩を落とした影山は好きなだけ観ろよ…とリモコンを渡してベッドに腰掛けた。
小さな巨人が跳ぶ度に歓喜の声を上げて喜ぶ背中を見つめながらベッド脇に置いていた紙袋を拾い上げた。
スポーツ店で買ったそれは日向の誕生日プレゼント。
先輩二人からのプレゼントの後ではどんなプレゼントでも霞んでしまうだろう。だが、影山はその紙袋を、画面に見入っている日向の目の前にぶら下げた。
「何だよ。見えないだろ?」
唇を尖らせて不満を呟きながらその紙袋を取る。
「東峰さんと西谷さんのプレゼントよりは劣るけど、俺からの誕生日プレゼント。」
「おおおおおお!サンキュー!なぁ、開けていいか?開けていいか?」
紙袋を抱きしめるようにして詰め寄れば、勢いに負けた影山が「お…おお。」と首を縦に振る。
ガサガサと大きな音をたてて紙袋から色気も洒落っ気も無い包装されたプレゼントを出し、中身を取り出した日向が歓喜の声を上げた。
鮮やかなオレンジと黒の…烏野カラーのフェイスタオル。
「影山サンキュー!」
嬉しそうにフェイスタオルに顔を埋める日向にちょっと安心する。
「俺、これ大事に使うな!」
画面で飛んでいる小さな巨人の事は忘れてしまったようだ。
喜ぶ日向の後頭部を左手で支え、掠め取るようなキスをすると、先程と打って変わって顔を真っ赤に染めた日向が驚いていた。
「誕生日おめでとう。翔陽。」
少しだけ口の端を上げて小さく笑ってやった。

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