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□ヘナチョコエースの恋愛事情
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西谷夕。一学年後輩の彼は同級生の男子より比べて一回り小さな手をしている。下手すれば女子と変わらないかもしれない。背の順に並べば間違いなく先頭の159センチ。足のサイズも小さくて、メンズで靴のサイズを探すのも一苦労だろうな。これで成長期真っ最中だというビックリする程細い背中。
それなのにチームの背後を護るその細い背中は大きい。小さい身体で驚く程の存在感を匂わす。
俺とは違う。
俺はとにかくデカイ。スパイクを打つ手のひらは硬く全体的にゴツゴツとしている。背丈も高く大抵必ず最後尾の184センチ。足のサイズだって大きい。横幅もあるからなかなか合うのが無くてこれまた探すのに一苦労だ。老け顔なのも相乗効果で留年してるとか噂される始末。俺、ピッチピチの17歳なんだけどなぁ。
見た目は怖そうと言われるけど、俺は小心者だ。少しのことでビビる薄っぺらいガラスの心臓だ。
そんな俺でも恋はする。
しかもその相手が西谷夕、その人だったりする訳だ。
「旭さーん。」と叫びながら満開の笑顔を振りまきながら俺の側まで走ってきて、猫のような大きな目を上目遣いにして懐いてくる。時には背後からダッシュしてきて背中に飛びついてきた時もあった。
懐かれることに嫌悪感は全く無く、むしろ反対で彼には好意しか浮かばず、その好意が恋に変わるのにそう時間はかからなかった。
とにかく自覚した時は、もう狼狽えた。数日間殆ど眠れない状態は続くし、考え過ぎて胃が痛くなった位で、バレー部新部長の席に着いた大地と新副部長のスガから相談にのるぞと、言われてしまった。
だけど言える訳ないだろ?
相手が女の子なら未だしも、恋愛対象がれっきとした男で、しかも同じ部の一番目立つ後輩。
無理無理!絶対に無理!相談しようものなら絶対に軽蔑の眼差しが待ってるって!大地から手厳しい一撃もきっと有るって!俺のガラスの心臓は木っ端微塵になるのがお約束!
そんな折、伊達工との試合で俺はとことんブロックされ続けて遂に潰された。ガラスの心臓には修復不可能な位のヒビが入った。
スパイクを全く決めれなかった俺は情けなくて…旭さん、旭さんと羨望の眼差しを向けて懐いてくれていた西谷もきっと幻滅しただろう。
だからー
俺は逃げた。バレーから…西谷から…
ちょうど良かったじゃないか。
こんな弱くてへなちょこな俺に好かれてても西谷はいい迷惑だろう。
離れれば良い。だけど俺は…やっぱりバレーが好きで退部することも出来ず、西谷への恋心も捨てきれずにいた。
部活に出なくなって一ヶ月が過ぎた頃には新年度となり、俺は最上級生となっていた。
大地、スガ、新一年生の日向と影山の言葉に動かされ、第二体育館に見つからないようにコッソリ覗きに行ったんだけど、日向にあっさり見つかり流れでコートに立つ事になってしまった。
一ヶ月ぶりのコート。一ヶ月…たった一ヶ月なのに凄く懐かしく感じた。そして俺はまだスパイクを打ちたいと…
背後で西谷が護っている。スガが俺の得意な高いトスを上げる。
そして俺は強く思った。
ここが大好きだと。ここに戻ってまた皆と戦いたいのだと。
チーム町内会との練習試合が終わった時は八時を迎えようとしていた。
ストレッチもしっかり終わらせてクールダウンしてから全員で部室に着替えに戻った。俺は最後尾をゆっくりついて行く。皆の中に埋れてチラチラとしか見えない西谷の小さな身体が、歩みを止めて後ろを振り返りあの大きな猫のような大きな目で俺を見た。
「な…何?」
「旭さん…後で一緒に帰りませんか?」
まっすぐな視線に俺はドキドキした。一ヶ月前と変わらない
「坂ノ下で肉まん買いましょ。」
「うん。いいよ。奢るよ。」
「あざっす!」
その瞬間前にいた大地が俺の顔をみた。あ…これはヤバイかも…
「皆、旭が坂ノ下で肉まん奢ってくれるぞ!」
やっぱりぃぃぃ!!
「旭さん、あざーす!」
日向の声を筆頭に全員が、歓喜の声をあげる。俺、西谷に一番辛い思いをさせたから奢りたかったんどけど…
まぁいいか。
大地にもスガにも…いや、排球部皆に迷惑かけたもんな。うん。肉まん奢る位はしないと。
ふと横をみればいつの間にか西谷が並んで何時もの満開笑顔でニコニコしていた。
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