泥棒達と風使いの少女
□溺れた少女
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「くぅ〜!おのれルパンめ!幼気な少女を誘拐とは…実にけしからん!!」
カモフラージュ用の枝葉を頭に着けて大きな独り言を漏らすのは、ICPOの銭形警部。
そんな怪しすぎる男に、近くを通る子供連れは「近付いちゃダメよ!」と子供の手を引き足早に去っていった。
「これは何としてでも奴等を逮捕し、あの少女を救わねば!」
正義の男銭形は、コートの内側に携えた無数の手錠に手をかけじりじりと一味との距離を詰めていく。
ライバルが近くに潜んでいる事など知りもしない一味は、至って平和な時間を過ごしており…
イビキをかいて昼寝をし出すルパンに悪戯しようと企てた3人が、毛虫付きの枝葉を手にそーっとシートに近付いていた。
そして毛虫をルパンの鼻先に近付けようとした瞬間…
ーボンッ!!
「「「っ!!?」」」
突然真っ赤なジャケットの胸ポケットから、舌を出した黄色い丸顔がビックリ箱のようにバネを揺らして飛び出し
逆に驚いた3人が揃って尻餅をついた。
「ヌッフッフ〜残念でした〜♪」
「お主、起きていたのか…。」
「当ったりめぇだろ!お前らの魂胆なんてな、バ〜ッチリお見通しだっての。」
「そうだったのか!!パパすごいぞ!!」
「じゃ美羽ちゃん!そんなすごいパパにチュ〜は?チュ〜…」
「見てらんねぇな、全く…。」
愛娘にデレデレしながら唇をつき出すルパンに、次元は大袈裟にため息を吐いて帽子を深く被り直す。
と、そこへ…
「ルパァ〜ン!!おのれ〜泥棒稼業だけでは飽き足らず、誘拐にまで手を染めるとは言語道断!!大人しくお縄につけぇ〜い!!覚悟ぉ〜!!」
凄まじい声に一味が振り向いた先には、勢いよく葉を散らして草むらから飛び出した銭形の姿。
手錠を振り上げ怒鳴り散らしながら、暢気な宿敵目掛けて猛ダッシュで向かって来る。
「いけね、ま〜たとっつぁんだよ…。」
「…とっつぁん…?」
「そ、パパを捕まえようとしてる物凄〜くしつこいオジサン。」
「にっ、逃げなくていいのか!?」
「せ〜っかく平和だったのになぁ?…よし、んじゃ逃げますか♪」
そわそわと慌てる美羽にルパンはニッコリ笑って立ち上がった。
それからブルーシートの端を片手で掴み上げ、すぐそこまで迫り来る銭形の顔目掛けてバサリと放り投げる。
「どわっ!?ま、前が見えん!!この!!」
頭からすっぽりシートを被ってしまった銭形は、オバケのような状態になりながらもすぐに体から剥ぎ取り芝生へと叩き付けた。
気を取り直し再び手錠を構えると、先程いた場所に一味の姿はなく…
慌てて周りを見渡した目に、公園奥の大きな池の方へ走って逃げる彼等の背中がロックオンされる。
ルパンの腕には、しっかり抱き上げられた少女がその首にしがみ付きながら肩越しにこちらを見ており
その目線の理由を、『助けて!』と脳内変換した銭形はワナワナ震えた後すぐに後を追って走り出した。
「待てぇ〜い!!少女を離せぇ〜!!誘拐犯めぇ〜!!」
「ま〜たとっつぁん、人聞き悪い事言うなっての!」
「黙れぇ〜!!貴様らのような悪党に人聞きも何もあるか!!」
一味は池まで辿り着くと、停泊しているスワンボートの屋根から屋根へと飛び移りながら進んで行く。
その途中、池の淵まで辿り着いた銭形が目をギラリと光らせその手に握る手錠を投げ縄のように数回振り回し
そして…
「ルパン覚悟ぉ〜!!」
ビュンッと風を切って投げられた手錠が、ボートとボートの間を飛び跳ねたルパンの無防備な後頭部に迫り
直前、ハッと気付くも空中では為す術もなく…
咄嗟に美羽を低く抱え込みながら体勢を下げて身構えたルパンの首元から、スルリと細い腕が伸びて
ービュンッ!!
人差し指を迫り来る手錠に向け素早くその指先を横へと弾くようにスライドさせた。
その瞬間、ギラギラと光を反射させながらルパン目掛けて飛んできていた手錠が指の動きに合わせるように直角に真横へと逸れ
丁度その先に停泊していたスワンボートに命中し、跳ね返ってそのまま池へと落ちた。