泥棒達と風使いの少女
□五ェ門お兄ちゃんの憂鬱
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「じゃあ、パパ達行ってくっかんな?五ェ門おじちゃんの言う事ちゃ〜んと聞くんだぞ?」
「わかった!!」
「…ルパン。」
「ん?なんだよ、五ェ門。」
「おじちゃんは止せ。」
盗みに入る建物の下見に行くと言って次元と共に玄関へ向かうルパンを不満げに睨む五ェ門は、内心不安まみれで目眩がしていた。
この2人が出掛ける…と言うことは、このアジトに美羽と2人きり。
…と言うことは、自分が美羽のお守り役となる。
このおてんば…いやいや、可愛い妹の面倒を果たして1人で見てやれるだろうか。
「ん〜…ほいじゃ、お兄ちゃん!後は任せたぜ♪」
「パパ!次元!いってらっしゃい!!」
「おう、いい子にしてろよ?」
次元にぽんぽんと頭を撫でられ、満面の笑みで手を振る美羽。
―ガチャンッ。
…行ってしまったか。
さて困った…こういう時、まず何をしてやれば良いのだろう。
本を読み聞かす、とか。
…いや、そんなに幼くないな。却下だ。
では共に遊んでやるか。
…しかし、何をして?
五ェ門が1人苦悩する中、その顔を不思議そうに眺める大きな瞳が途端に輝き出す。
「五ェ門、お腹減ったのか?」
「む?あ、あぁそうか。飯がまだであったな。どれ、拙者が…」
「美羽が作るぞ!待ってろ五ェ門!」
―パタパタパタ…!
「…………は?」
作ってやろう。と言おうとした筈が、まさかの展開に暫し固まってしまった。
元気良く駆けて行った美羽は、キッチンの方で何やら物音を立てている。
…嫌な予感しかしない。
「五ェ門!見て!どうだ?似合うか?」
青ざめる五ェ門の心境など露知らず…無邪気な笑顔で現れた美羽は、水色地に白の水玉があしらわれた可愛らしいエプロン姿だった。
うむ。何とも、愛らしい。
…いやいやいや、そんな事考えている場合ではない。
「…お主、料理など出来るのか?」
「できるぞ!次元は、危ないからまだダメだって言うけど…」
「ならば止めておけ。大人しく待っていろ。拙者が作る。」
「うっ…」
ため息混じりに、ついいつもの仏頂面で言ってしまいハッとした時にはもう遅く…
輝いていた瞳はみるみる曇り、終いには大粒の涙がまるで雨粒の如く溢れ出した。
「こ、これ…泣くでない。」
「うぅっ…だって…五ェ門が…五ェ門がぁぁぁ!!」
両手の甲で目を押さえながらビービー泣き出した美羽に、おろおろと手を泳がせる。
拙者とした事が…幼い娘を泣かせるなど、一生の不覚…!
「わ、わかった!拙者が悪かった。昼飯はお主に任せる。だから泣くな。」
ここで風でも吹かされたら堪らぬ…と、内心ひやひやしながら必死に宥める五ェ門の言葉に
一層騒がしさを増していた泣き声が、ピタリと止む。
「…ほんとか?」
「うむ。武士に二言はない。その代わり、怪我だけはするでないぞ?」
「わかった!!」
つい…甘やかしてしまった。
先程までの涙が嘘のように元気いっぱいな笑顔でキッチンへ駆け戻る後ろ姿を呆然と眺めて、軽く頭を抱える。
こんな事で、今日1日平和に過ごせるのだろうか。
「美羽。」
「なんだ?」
「まず手を洗え。」
「えー…」
「洗え。」
「むぅ…」
行く末、誠にもって不安でござる…。