マシュマロだって恋をする
□はじまりは、とても寒い季節
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師走の街は賑やかだ。
見渡せば彼方も此方もチカチカと眩しい電飾を纏い、我こそが一番とばかりに夜の街を彩っている。
外の気温は2℃。
前髪をいたずらに揺らす風が容赦なく頬へと突き刺さり、より一層私の体を縮こまらせた。
もうすぐクリスマス…
この時期の街は独り者への配慮などない。
すれ違う男女は、まるで自分達以外の人間は道端の石や草かのように二人だけの世界へどっぷり入り込んでいる。
いかんいかん…
これでは完全に負け犬の僻み…いや、
喪女の僻みではないか…
何を隠そうこの私、近頃流行りのマシュマロ系女子。
という名のデブ。
おまけに卑屈者。
20代もあと数年で終わりを告げる…
四捨五入すれば30
つまり、アラサー。
こんな私に浮いた話などない。
ああ…これが大好きな少女漫画の世界ならば、
きっと女の外見なんて気にしない素敵な王子様が現れて…
この退屈な毎日から連れ出してくれるはず…
ーゴゴゴッ…
「ん?」
妄想を突然の地鳴りによって遮られ、反射的にすぐ傍にある建物の外壁に目を向ける。
人や車の多い大通りは日頃から避ける癖があるため、今見ているのは建物の丁度裏側。
「ここは確か…今日オープンしたばかりのジュエリーショップ…?」
なんでも、世界的に有名なブランドが手掛けるショップで
オープン日には数億円もするような宝石びっしりのティアラを展示するとか…
セレブな芸能人やらお笑い芸人やらが来てそれをレポートするとか…
今朝のニュースは、この話題で持ちきりだった。
「…まさか、芸能人目当ての人が殺到してるとか?これで建物壊れたらウケるわー。」
周りに人がいないのをいい事に、やや大きめな独り言を漏らしヘラヘラ笑っていたその時だった。