マシュマロだって恋をする


□聖なる夜の魔術師
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「ちょっと次元さん!玉ねぎもっと小さく切ってよ!」

「あーもう嫌だ!俺は降りる!」

「引き受けたの誰よ!?」


今、アジトのキッチンには玉ねぎのツーンとした匂いが漂っていた。

その原因となっているのは、目を手の甲で押さえながら涙声で降参を訴える次元の傍に…


「次元さんが玉ねぎ切ってくれるって言ったんじゃん!泣いてないで早く切ってよ!」

「なんとでも言え!もう限界だ!」


ーガチャッ


次元が喚きながらエプロンを脱ぎ近くの椅子に投げ付けようとした瞬間、キッチンとリビングを繋ぐ扉が開き
料理中だった二人は驚いたようにそちらを振り向く。


「む?どうした。拙者の顔に何か付いているか?」


此方を見て固まる二人に、困ったように訪ねたのは


「「五ェ門(さん)!!」」



愛しの五ェ門に会えた嬉しさで固まっていた優芽と、玉ねぎ担当を押し付けられるいい人物が来た嬉しさで固まっていた次元が

目を輝かせながら同時に名前を叫ぶ。


訳がわからずとりあえず自身の顔を手で確認していた五ェ門は、二人の目にただならぬ気配を感じ思わず後ずさった。


「邪…邪魔をしたようだ。」

「なーに言ってやがる!五ェ門、お前さん切るのは得意だろ!ほれ、パス!」

「なっ…!馬鹿を申せ!拙者は料理など…!こら、次元!」



五ェ門にエプロンを投げ渡すと、逃げるようにキッチンを出ていく次元。

その後ろ姿が去った扉を呆然と見つめる五ェ門の背後では、フリフリエプロンを身に付けた優芽がハートを撒き散らしながら喜びに悶えている。


「では五ェ門さん、よろしくお願いします!」

「いや、拙者は…」

「うおあー!!吹き零れた!!っ熱!!!」



深々と頭を下げた優芽がふと横目で鍋を見ると、ぶくぶくと泡と湯気を放出しながら蓋をカタカタと揺らしていた。

慌てて蓋に手を伸ばした優芽は、その熱さに思わず声を上げて離す。



鍋の蓋が床に落ちると同時に、優芽の背中をふわりと布の感触が包み体が後ろへと倒れるように引かれた。

右肩を捕まれる感覚に状況が把握できない中、左側から自分とは違う細くも逞しい腕が伸びガスコンロの火を消す。




「…………」




(息が、止まるかと思った。

訳がわからず見上げたら、五ェ門さんの美しい顔が目の前に…!)




「見せてみろ。」

「え?」



先程蓋を触った右手をグイッと掴まれ引き寄せられる。


「少し赤くなっておるな…。大した事はないが、すぐに冷やせ。」


安心したように口元に笑みを浮かべ手を離した五ェ門は、布巾を手に取り落ちた蓋を掴み上げると傍らの小さなテーブルに置いた。


「五ェ門さん…」

「ん?」

「も、もも、もう一回手を…っ!!」

「早く冷やさぬか!」



目をハートにしながら抱き着こうとしてくる優芽を一喝した後すぐ手慣れた様子で襷(たすき)掛けをする五ェ門を、大人しく水道で手を冷やしながらぼーっと眺める優芽。

その口元はニヤニヤとだらしなく緩んでいる。



「これは…。次元め、あやつこれで逃げ出したな。修行が足りぬわ。」



五ェ門は襷掛けを終えると、ニヤける優芽を他所に次元がやりかけで投げ出した玉ねぎの残骸を目の当たりにしてため息を吐いた。


すると突如壁に立て掛けてあった刀を手に取り、もう片手でまだ切れていない玉ねぎを掴む。


そして次の瞬間、玉ねぎを宙に放り投げ


「テャァー!!」


叫び声を上げた一瞬の間に玉ねぎは空中で見事なまでに細かいみじん切りにされ、五ェ門が鞘に刀を収めると同時にまな板の上へと綺麗に落ちた。


「…また、つまらぬものを斬ってしまった。」

「おおおおおーーーー!!すごぉい!!五ェ門さんカッコいい!!」


思わずパチパチと拍手をする優芽。


カッコいいという言葉に赤らむ顔を誤魔化すように咳払いをして、優芽の手に目をやる。



「もう平気か?」

「はい、ご心配おかけしました!後は一人でできますから、五ェ門さんは食事ができるまで休んでください!
修行でお疲れなのに、手伝ってくださってありがとうございます!」



ニコニコと笑って頭を下げる優芽の手には、未だ赤い火傷の跡。



「…待っておれ。」


五ェ門はスルリと自ら掛けていた襷を外し、リビングへの扉へと向かう。


不思議そうに見送る優芽だったが、扉の向こうに消えた五ェ門を言われた通り待つ事にした。


それからすぐに戻ってきた五ェ門の手には何やら小さな箱があり、優芽の傍に近付くとその箱から何かを取り出した。


「手を出せ。」

「え…?」





(こ…これは…!


プ…プロポーズ!!!?)


「そ、そんな五ェ門さんたらいつの間に私の指のサイズ測ったんですかぁ〜」


デレデレと左手を差し出す優芽に、


「なにを馬鹿な事を。早く逆の手を出せ。」

「へ?」


呆れたように言って優芽の右手を掴み引き寄せると、赤くなった箇所に手早く絆創膏を貼った。


勘違いに気付き恥ずかしさのあまり頭から湯気を出し壁に頭を打ち付け出す優芽に若干引きつつも、コホンと咳払いを一度した後言い慣れない照れ臭さから少々躊躇いながらも口を開く。


「…お主が作る煮物、期待しているぞ。」

「!…はい!」


途端に輝き出した優芽の顔に、つられてフッと笑みが溢れる。

先程吹き零れて消したままだった鍋のガスコンロに火を着け、今後は慎重に火加減を見ている優芽をしばし見守ると

五ェ門は静かにリビングへと戻っていった。
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