マシュマロだって恋をする
□そうだ、温泉へ行こう!前編
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「うぅー…のぉ、ルパンさんや…」
「はいはい、なんでしょ優芽さんや?」
「わしゃ…もうダメじゃ…」
「あわわわ、寝ちゃダメだってば!起きなさぁ〜い!死んじまうって!なぁ!おい!お〜い!」
ここは南極…ではなく
お馴染み、アジトのリビングである。
ではどうしてここにいる2人が、毛布にくるまりながら映画のワンシーンのようなやり取りをしているのかと言うと…
ーガチャッ
「戻ったぜ!」
「優芽!無事か!」
「おお〜次元、五ェ門!待ってたぜ〜!」
ドタドタと慌ただしくリビングに入って来た2人の両手には、大きなショッピング袋。
「五ェ…門さん…」
「優芽…!待っておれ、今暖めてやる!」
そう言って五ェ門は脱ぐ…のではなく、ショッピング袋の中から大量のホッカイロを取り出す。
それをパッケージ入りのまま10個程宙に投げると、
「テヤァーーー!!!」
ー………チャキン。
肉眼では見えない程一瞬で刀を抜き、そして鞘に収める。
するとキレイに外袋だけが剥けたホッカイロが、毛布にくるまったままソファーに倒れ込んでいる優芽の上に均等に落ちた。
「あ…ありがとう…ございます…」
カチカチと顎を震わせながら言葉を発する度に白い息が漏れる。
「五ェ門ちゃん、俺にも!」
「お主は自分でやれ。」
「あ〜そう!そういう事言っちゃう!?お前の可愛い優芽ちゃんを励まし続けたのは誰だと思ってやがるんだってのちくしょー!」
優芽と同じく毛布にくるまり凍えていたルパンは、薄情な五ェ門に文句をたれながら自分でホッカイロを取り出し外袋を剥がすと怒りに任せてシャカシャカと豪快に振る。
「なぁ、ルパンよ。もう新しいエアコン買った方がいいんじゃねぇか?これじゃあ外にいるのも同じだ。」
「バカ言え!まだ買ったばっかの新品ちゃんだっつーの!保証期間バリバリ!」
「…しかし業者の野郎、明日にならなきゃ時間がとれねぇってどういうこった。凍え死ねってか。」
「うう…全然暖まらない…。不二子さんとワン太郎は、今頃暖かい部屋でスパイやってるのかな…。」
寒さでイライラし出すルパンと次元。
ソファーでは未だ暖まらないホッカイロに顔を青くして嘆きながらも不在の不二子と愛犬を思う優芽と、
おろおろと慌てながら優芽の体を毛布越しに擦っている五ェ門。
一味が室内で凍えている理由、
そう、それは
エアコンの故障。
2月という一番寒い時期に、ルパン曰く新品ちゃんのエアコンが故障するとは誰が予想できただろうか…。
この外気と変わらぬ極寒の中で明日まで過ごすなど、修行を積んだ五ェ門以外の3人には地獄そのものだった。
「そうだ、優芽!風呂に入ってはどうだ?」
「湯冷めで死ぬぜ?」
五ェ門、
必死の提案を次元に即却下され落ち込む。
「あー…温泉とか入りたいなぁ…」
「え?今優芽ちゃん何つった?」
「おーんーせーんー…」
「それだぁぁぁ!!!」
突然毛布を豪快に剥ぎ捨て立ち上がったルパンに、皆の肩が跳ねる。
「よーし、行っちゃおうじゃないの!名付けて、ルパン様プレゼンツお泊まり温泉ツア〜!!」
生死に関わる寒さの中、この間抜けなタイトルにツッコもうとする者も反対する者もいるはずなく…
かくして、
一行は温泉という天国を求め、各自1泊分の荷物と一緒に車へと乗り込んだ。