泥棒達と風使いの少女
□風使いの少女
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「なぁルパンよ、こいつはちっとまずくねぇか?」
「然様、これでは斬っても斬っても切りがないでござる。」
「黙ってろ!今どうすっか考えてんだよ!」
今、ルパン一味は泥棒人生最大のピンチに陥っていた。
彼等を取り囲むのは数えきれない程夥しい数の鉄人兵団。
この国では古くから科学が発達しており、有能な科学者達により大量に開発された屈強な警備ロボット。
これには、流石のルパンも頭を抱えていた。
「奴等の体、いとも簡単に俺の弾を跳ね返しやがる。こりゃ大砲でもねぇ限り打つ手はねぇぜ。」
諦めたように呟いて煙草に火を点ける次元。
いつも余裕な顔をしているルパンの額にも大粒の汗が光る。
ロボット達は財宝に手を出す者を容赦なく殺すようインプットされているようで、360度一味を取り囲みじりじりとその距離を詰めていく。
ここまでか…
一味の脳裏に絶望の言葉が浮かんだ時、思わず顔を覆うような強い風が吹く。
ロボット達の一部が、ルパン達を中心にできている輪の外を振り向くように顔を向けた…その時。
ーゴオオォォォ!!!!
唸りを上げた暴風により何百体もいたロボットの一部が、まるでプラモデルかのように空高く舞い上がった。
輪にぽっかりとできた隙間から、ルパン達が立つ場所からでもその向こうが確認できる。
そこにいたのは、まだ幼い少女の姿。
薄汚れたマントのような布を体に巻き付け、その隙間から枝のように細い腕を空高くに伸ばしている。
長い髪が揺れる、その奥に覗く藍色の瞳は鋭く
推定14〜15歳程の少女には不釣り合いの殺意とも感じ取れる雰囲気を漂わせていた。
「邪魔だ。」
少女の唇がそう呟くのを、ルパンは風に目を細めながらも確かに見た。
仲間達が地面に叩き付けられ無惨に壊れゆく中、ロボット達は皆一斉にその標的をルパン一味から少女へと変える。
一瞬だった。
ルパン達が死を覚悟する程に数多く蠢いていた鉄人兵団は、一瞬にして荒野の地面に鉄屑として転がる存在となった。
そして風は止み、少女は表情一つ変えず静かに腕をマントの中に戻し歩き出す。
丁度一味が呆然と佇む真横を通り過ぎる時、先程は遠くて見えなかったがその幼い顔はマント同様薄汚れておりげっそりとしたその頬には無数の擦り傷が目立った。
「ちょっと待った!」
思わずルパンは声を上げる。
少女は、顔も向けず静かに立ち止まった。
「いや〜おかげで助かっちゃったよ!何かお礼できないかな?そうだ!お腹減ってない?」
いつも通りニコニコと笑顔で話しかけるルパンに、少女は振り向くと同時に訝しげな顔を見せた。
「お前達は、逃げないのか?」
「逃げる?なんで?」
「化け物だって、思わないのか?」
「全〜然。化け物はあいつ等でしょ!だって俺達、君のおかげで助かったのよ?もうね、命の恩人!感謝永遠に〜!」
おどけて見せるルパンを、少女は藍色の目を丸くして見つめた。
「だからさ、君さえ嫌じゃなかったらオジサンと一緒に来ない?ご馳走すっからさ♪」
「…うん!」
ウインクするルパンに、少女はみるみる表情を輝かせ大きく頷いた。
その反応に満足気な笑顔を溢し、お姫様にするようにそっと差し出されたルパンの手。
戸惑いながらも、その手をそっと握る少女。
「んじゃ、行きますか♪」
ルパンの言葉に、次元と五ェ門も静かに頷く。
こうして一味と少女は、少し歩いた先の岩影に隠しておいた小型のプロペラ機に乗り込みこの国を離れた。