* NO.6
□桃色
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「紫苑、これとこれ運んで。」
お皿に乗ったスープを渡される。
結局・・・あまり手伝うことができなかった。
完璧すぎるネズミの手さばきで、ご馳走は僅か30分で完成したのだ。
あいにく僕は、
食べ物を運んだり、テーブルを拭いたりするだけになってしまっていた。
低めのテーブルを、大きな桜の木の下へと運び
ご馳走を並べ終え、君と隣り合わせで座る。
「いただきます。」
僕は丁寧に手を合わせる。
「自然の恵みに感謝しないとな。」
ネズミも手を合わせた。
テーブルに並んでいるものは何から何まで美味しそうで、
何から箸を付けようか迷っていると
「なぁ紫苑、これ、俺の自信作なんだけど食べてみてよ。」
何やら誇らしげな顔。
その指の先にあるものは、
桜の花弁を使った、桃で煮てある綺麗な桃色のパイだった。
春の香りが、鼻を通り抜ける。
「いい香りだ。」
そのままの感情を口にすると、
ネズミがフォークで桃色のパイを刺して
僕の口元へと運んできた。
僕は恥ずかしくなって口を噤む。
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