海神の娘
□プロローグ
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「この海の荒れよう、船は出せんな」
黒雲が立ちこめ風は吹き荒び横殴りの雨が降り続く。ー関東某所。玉依姫命神を祀る孤島では、年に一度の祭祀のため島より舟で数分の小島にある社へ現人神たる巫女を乗せ出航しようというところだった。
「嬢。どうする」
男は後ろに控える女に声をかける。彼女こそ初代、玉依姫命神を奉じる当代の巫女、玉依姫。八百万の神々の一柱にして、人の身でただ一人神格を得る現人神。
「どーする?って、行くしかないでしょう。嵐だろうが関係ないわ。玉依姫は海神の娘。この程度、問題じゃないわ。」
そう言って彼女は海に向かって手をかざし良く通る声で言い放った。
「海神が娘、玉依姫命神の名において命ず。我が行く先を阻むこと能わず。道開け。」
その声に従うように海が左右に避けるように道をあけた。
「行くわよ。…これなら車の方がいいかしら?いや、止めるところもないし、徒歩ね。あぁめんどくさいわ。」
「しょうがないだろう?行かないわけにはいかないのだから。」
ため息と共に二人は歩き始めた。