novel

□教え
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『教え』


  暖かい日差しが差し込む午後。
  クレフは自室で執務中。

  プレセアはというと。

  

  「あら。ランティス。導師に本を返しにきたの?」

  クレフの部屋の方角に向かう魔法騎士。
  その後ろからお茶セットを持って追いかける創師。
  黒衣の騎士が持つ分厚い魔術専門書は、この国ではそうそう
  出回っている書物ではない。

  先日ランティスが、新たな魔術研鑽のため
  師であるクレフに相談しているところをプレセアは偶然
  居合わせた。

  実地で教えたいのはやまやまだが、
  この国で最も忙しい魔法使いの彼は弟子に
  一冊の専門書を渡し、
  
  「10日で解読してみよ。」

  と難問課題を与えた。


  「解読できたの?」

  プレセアはランティスに問う。
  その様子はどこか楽しげで、期待が混じる。

  「解けん。」

  
  無表情で答える。

  「え?」

  「このような書物を10日で解けというのは、まったく
   相変わらずの鬼師匠ぶりだな。
   別の辞書を借りに行くところだ。
   この書は魔術結界が幾重にも施されている。
   1000個の鍵がかかっているといったところだ。
   字引なしでは20鍵しか解けん。」

   
   プレセアは師弟関係の二人が今までどんな関わりをしてきたか、
   興味を持った。

   ランティスに以前聞いたときは


   「あの方は鬼だ。」


   と一言話したきりだったが。


   「ねえ、ランティス。
    導師の教え方はいつもどんな様子なの?」


   プレセアは自分よりもランティスのほうが
   ずっと導師に頼りにされていると感じていた。

   そんなランティスは昔を思い出すようにして、
   目を閉じる。

 
   「あの方は、個人の努力をとても尊重する。
    教えの中にとても厳しさと愛情がある。」


   コツコツと靴を鳴らしながら、魔法騎士は廊下を行ってしまった。
   

   プレセアはふと思う。
   あの人を鬼と言う彼の顔は決して恐怖にゆがまず、
   嬉しそうに目を細めている。

   自分も教えを乞いたかったなと
   プレセアもまた廊下を歩み進んだ。

   疲れているあの方のもとへ、早くお茶を。

  

   終わり。

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