novel

□思慕
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イーグルはランティスと友人として関係を築いてきた。

無口で無愛想な彼に魔法を教えた師について、尋ねたことがある。

「導師クレフ」

師の名前だけしかその時は教えてもらえなかった。


しかし、イーグルは興味があった。

何回もしつこくどんな人物なのか、どんな力を持っているのか、修行はどんなことをしていたのか

彼に聞いて回った。

ランティスは基本的に簡潔に要点しか話さないが、

自分自身のことと、クレフという師匠について話さなければならないとき、

黙ることが多かった。





それが今、

イーグルはセフィーロに居住させてもらっている。

国の最高責任者にあたるランティスの師、

クレフを目で追うことが多くなっていた。

こんな子供が、ランティスの師。

イーグルはもともと好奇心旺盛で、興味を持った他者への観察力は鋭い。

クレフを観察していると、彼がセフィーロの民にどれほど慕われているかがすぐにわかる。

尊敬、憧れ、いつも民を守ってくれている。

見た目は子供だというのに、不信感を抱くものはいなかった。



そんなクレフの心を、自分だけに向けてしまいたい。

いつしかそんな感情を抱くようになった。






クレフの自室を訪問すると、部屋の中は書類と本だらけだった。

彼は忙しそうにペンを走らせている。

「どうした?イーグル。」

クレフはイーグルの表情を見るために顔を上げる。

イーグルは目の前の、この強大な魔力をもった少年を

自分の籠の中にしまっておきたい。

そんな自分勝手な願望に取りつかれていた。

「はい。少しだけクレフと話がしたくて。お忙しい中すみません。」

もし、籠の中に閉じ込めて隠したら、皆は狂ってクレフを探すだろう。

また、クレフもイーグルがそのような馬鹿な真似をするはずがないと信頼しているだろう。

アルシオーネという弟子に裏切られたと聞いたが、

裏切る弟子の気持ちが少しだけわかる。

こんなに自分たちに愛情を注いでくれて、

助けてくれて、与えてくれて、守ってくれる師。

それを裏切るときの 感情。

裏切ることで、関係を断つことで、敵になることで、


彼を自分の手中におさめたい欲望。


屈折しているとは思う。

万人に向けている笑顔。

それがもし、一人だけに向けることができたとしたら。


イーグルはそこで思考を止めた。

今日はまだ、彼に何もしない。

まだ。





鳥から翼を奪ってしまえば、鳥は二度と空を飛ぶことはできない。

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