novel

□貴方だけだ
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「何の真似だ?ランティス?」

 寝台に眠っているクレフの腕をひとくくりにして彼の自由を奪っているランティス。

 今、クレフは体調を崩し、寝込んでいたのだが。

 弟子の突然の訪問を許し、挙句の果てにこうときた。

 師に喧嘩を売りに来たのか。または酔っているのか。冗談なのか。

 もしクレフの体がなんともなければ、返り討ちにしているところだ。

 ふう。と、導師クレフはため息をついた。

 幼少時のランティスはクレフをじっと見つめていることがたびたびあった。

 そんな彼を見て兄ザカートはまるで恋をしているみたいだと弟をからかっていた。

 そんな思い出を何故だか、今脳裏に描いた。

 その心を、ランティスは読んだ。


 「俺の思いは初めからずっと変わらない。」

 「なんのことだ?」

 次はランティスがため息をつく番だった。

 どうしてこうも、鈍いのだ。

 ならば、はっきりと告げ、実力行使に出よう。

 そう決めて、今夜ここに来た。


 幼いころから、ずっと守りたいと思ってきた師。

 小さく、儚く、頑固で、生真面目で、無茶をする、

 そのくせ、誰よりも最強の魔力を持ち、弟子が誰一人として彼に追いつけない。

 愛情と厳しさを併せ持ち、弟子を信頼するそのまっすぐな心。



 クレフの口内に無理やりランティスの舌を侵入させる。

 深く口づける。師は、目を見開いた。

 戸惑い、驚く心がランティスの心にも伝わってくる。

 クレフの足がランティスの甲冑を蹴る。

 縛られている手を無理やりほどこうとする。

 そんな抵抗は無に等しい。

 
 「おとなしくしていろ。」
 

 「ふざけるな!」


 口づけを止めると一喝された。

 (まあ、予想はしていたが…)

 ランティスはクレフの細く華奢な体を抱きしめた。

 夜間着をまとっている彼はいつもの法衣姿とは違い、

 いっそう幼く見えた。

 クレフの首筋に舌を這わす。

 この導師は昔から色が白く、街にいる女性よりも美しい顔立ちをしていると

 何かの宴席で聞いたことがある。

 無論、話をしていた当の酔っ払い共には鉄槌を食らわせておいたのだが。


 「おまえはそんなに私が嫌いになったか?」


 「…」


 まただ。また始まった。

 鈍さに始まるウルトラスーパー勘違い。

 「こんな嫌がらせをしてきて、全く…」

 違う。

 断じて違う。

 俺はただあなたのことが好きなのだ。

 ただそれだけなのだ。

 なのになぜ、そこで「嫌われている」という思考にたどり着くのか。

 よくこれで700年も生きてこられたものだ…。

  
 「クレフ…。俺はあなたに師事していたときから、あなたを愛していた。

  あなたを求める思いを、知ってほしいから、こうしているんだが。」



 「私だって、おまえたちのことは好いている。皆かわいい愛弟子だ。」


 「…」

 
 ランティスは泣きたい気持ちになった。

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