novel

□剣術指南
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「王子。」

 クレフがフェリオに連れてこられたのは、城の中庭。

 王子の表情は嬉々としている。

 フェリオは握っていたクレフの手をようやく放す。

 「導師が剣を扱うなんて、知りませんでした。ぜひ、一戦お願いできませんか?」

 「いや、あの、誰からその話を?」

 「ランティスですよ!自分の剣術は導師に教わったとお聞きしました。」

 「…」

 クレフは遠い目をしている。弟子の意外な口の軽さに驚きながら。 

 「俺も放浪の旅をしていたので、剣には自信があります。

  けど、何よりあなたの剣術を見てみたいんです。」

 さ、どうぞ。と剣を差し出す若い王子にクレフはやれやれと、ため息をついた。

 「私なんかの剣よりも、ラファーガのほうが得るものがあるでしょう。」

 「とんでもない。」 

 フェリオは剣を片手にクレフから間合いをとって、勝負を半ば強制的にスタートさせた。

 「行きますよ。」



 先手を打ったのは王子。

 小さい姿とはいえ、相手はどんな攻撃を仕掛けてくるかわからない。

 クレフに向かって大きく剣を振り下ろす。

 
 クレフは剣を使わず、素早い動きで身をひるがえす。

 簡単に王子の背後に回る。

 「!(早い!)」

 しかし剣を使ってこない。

 馬鹿にされていると感じたフェリオは頭に血が上る。

 「導師!なんで攻撃しないんですか!」

 すっ、すっと王子の剣を交わしていくクレフ。

 あなたの剣がみたいのに。

 こうまで攻撃が当たらないとなると、話にならない。

 だが剣と剣が打ち合う勝負がしたいフェリオはおもしろくない。

 王子が息が上がってきた頃合いをクレフは見逃さなかった。

 
 王子の視界からクレフが消えたかと思ったその瞬間。

 
 「っ!」

 「もう、終わりにしませんか?」


 クレフはフェリオの背中から彼の心臓に剣の先端を当てていた。
  

 
 

 「もう!」

 「何をそんなに怒っていられるのですか?」

 「あなたに負けたことです。あと、いろいろです。」

 ランティスばかりずるい。

 と感じてしまった自分がいること。

 あくまでクレフは王子と師弟関係になれないこと、も含めて。

 ずるい。

 と思ってしまう。

 こんな今の上下関係(王子と導師)なんてなくなってしまえばいいのに。

 そうしたら、俺はあなたの最高の弟子になりえるのに。

 こんな勝手な欲求が生じてしまう、

 この老齢な少年に

 振り回されている。


 (この線を超えられたらな…)


 あなたの瞳に映る俺は、きっと…。


 そこで思考を止めた。

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