長編-僕がもう少し大胆なら


□第5章
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「あーさぶっ…!」

2月に入って、学校から帰ろうとするとめっきり冷え込んだ空気が肌を刺す。
ブレザーのポケットに手をつっこんだまま早足で家を目指す。



転校してきて早2週間。
最近はだいぶ学校にも慣れてきて、前より話せる子が増えた。
特に愛菜やまーちゅんとはよくおしゃべりする仲で、お弁当なんかもここら辺の人たちと食べてる。
山田さんは相変わらず静かやけど、みるきーの隣にいるときはよく笑顔を見せる。
みるきー自身はよく話しかけてくれて最近はほんまに仲がいい。


先週、そんなみるきーにお茶に誘われたんやけど、引っ越しの後片付けに追われて結局行けへんかった。せっかく誘ってくれたのに行けへんのが申し訳なくて今度誘うときは私から、と決めていた。
今週に入ってやっと部屋が片付いたということでさっき学校でみるきーを誘った。


「暇な日にでもお茶行かへん?この前誘ってくれてたやん。」

前に座るみるきーに私が言うと、みるきーは一瞬驚いたような顔をした。
でも、すぐに笑顔で「もちろん!行く行く〜!」と勢いよく立ち上がってそのまま私に飛びついてきた。
びっくりしてよけようと思ったけど座ったままの私は上半身を逸らすのが精一杯で、気がつけば私の膝の上には笑顔のみるきーが乗っかっていた。


「離してー。」

「いやや〜。」

「離してよー。」

「いややって。」

何度言ってもみるきーが全然離れへんからそのままの体勢で「いつ暇?」と聞くと「詳しいことはあとでここにメールして?」と、小さい紙きれをポッケに入れてきた。

そのあともずっと私に抱きつくもんやからクラスメイトには騒がれるし、なんか知らんけど山田さんは怒ってるしで大変やった。
最終的に山田さんに無理やり連れていってもらったから今こうして帰れてるんやけど。




「みるきーにはほんまに敵わんわ…」

ポッケに入った紙きれを取り出して歩きながらもう一度見る。
そこには可愛らしい文字で書かれたみるきーのアドレス。
私に渡すためにこの紙を用意していたと思うとなんだか嬉しい気もする。


家に着いて、みるきーに渡された紙きれを手に持ったままベッドに寝転がる。
アドレス帳に「みるきー」と登録して、「新規メール作成」のボタンに触れた。


初めてのメールやし変に馴れ馴れしいのも嫌やなと思い、とりあえず件名に「はじめまして」と入れてみる。
でもなんかしっくりこんくて「山本彩です」と打ち直す。


スケジュールを確認して「お茶の件、あさって以外なら空いてるんやけどどうかな?」と打ち込んで送信すると、すぐに携帯がピポンと光った。
少し緊張しながら携帯を見てみると受信完了の文字の下に「みるきーやで♡」といういかにもみるきーらしいメール。

そのまま開いて見てみると「それなら明日行かへん!?暇なんやろ?♡」と書かれていた。


「明日って急やな笑」

思わず一人言を言って、「ええよー。ほんなら放課後そのまま教室で待ってるな!」と返した。


---


結局、みるきーとのお茶は明日の放課後になった。
「山田さんは誘わへんの?」とメールで聞いたけど、「今回はさやかちゃんと行きたいねん!」と返ってきた。

みるきーは「女の子」って感じの子やから二人きりはちょっと緊張する。
って言っても一方的に話してくれるから楽なんやけど。



思えば転校してきてから誰かと遊びに行くのはこれが初めてだった。
まさかみるきーがその相手だとは思わなかったし、
どちらかというとみるきーは私と真逆の雰囲気を持ってるから初めて会ったときは仲良くなれるとは思ってもいなかった。
対する山田さんは全然心を許してくれへんのやけど。



ウキウキと不安が入り混じって、その晩は早めにお風呂を済ませて布団に潜りこんだ。




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