リクエスト

□優しい人/さやみる
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“山本彩”

この3文字が携帯に映ったとき、私の心はなんとも言えなく弾む。


「はぁ…さやか、疲れてんちゃうかなぁ。」


少し前まではさやかと一緒に行動しない日の方が珍しかった。同じチームNとして、NMB選抜として、そしてAKB選抜として…

やけど最近はお互いにピンの仕事も増えてきてそれが難しくなってきた。いま考えたらもう一週間くらいはろくに話せてないんちゃうかな。
チームでの公演も少ないし…会ってもさやかは仮眠をとって、そのあとすぐ収録。それが終わったら急いで新幹線に乗る毎日。

それでも私がメールをすると、こうして必ず返信してくれるさやかはほんまに鉄人やと思う。


『私? 全然大丈夫だよ!みゆきこそ疲れてんのちゃう?』


「はあ…」


携帯の画面を見て、私はため息をつく。

またさやかに気ぃ遣わせちゃった…。
絶対さやかの方が疲れてんのに。


『うちは大丈夫やから、さやかは早めに寝た方がいいで!じゃあ、また会えたら明日な?♡』


携帯にそう打ち込むと私はすぐに携帯を手から離す。

ほんまはさやかともっとメールしたい。なんなら電話してさやかの声が聞きたい。

でも…
さやかは弱いところ見せへん人やから。せめて負担になったらあかんやん…?

やから私は自分の気持ちを押し殺してさやかとのメールを終わらせた。




「ほんまですかあっ!?」

マネージャーさんから今日の夜にみんなで打ち上げをすると聞いたのは翌朝のことやった。

もちろんさやかも来るらしい。
私は東京からの大阪。
さやかは大阪、東京、そして大阪。

今日はめっきりバラバラの仕事。忙しすぎて番組の説明さえバラバラになるんやもん、ほんまにさみしい。
でも、今日は夜にさやかに会えるから。

『聞いた!?今日の夜、大阪で打ち上げやって!ほんまに嬉しい!』

さやかにメールをして仕事に入る。




「ありがとうございましたー!」


仕事の合間に携帯をチェックするけどさやかからのメールはまだ来ない。さやかの負担になりたくないって思っててもさやかの存在を確認したい私がいて。でもそれはさやかにとって迷惑かもわからへん。複雑な気持ちが心に満ちて、そんな気持ちのまま次の仕事に入る。




『返信遅れてごめんな!いまそっち向かってるから、待ってて!』

やっと来たさやかからのメール。それはもう夜のことで、打ち上げの会場について座りながらそれを見た。

もうすぐ会えるんやから、わざわざ返信くれへんくてもいいのに…

さやかの優しさに心が痛む。



「あー、さやかぁー!」

そんなメンバーの声が聞こえたのはそのとき。私は反射的に振り向く。


ー大好きな笑顔。


「ああ、みゆき!」

さやかは私に気づいて駆け寄ってくる。嬉しさとさみしさと悲しさ、全部が混じって私はうまく返事ができない。

「…みゆき?なしたん…?」

さやかの困った笑顔。

「、」

私は溢れそうになる涙を奥歯で噛み殺して首を横に降る。

「いやあ、やめてえや!ほんまにどうしたんみゆきー!笑」

さやかは苦笑いしながらも私の頭をなでてくれる。


「ほんまに大丈夫?」

少し落ち着いた私の手をとって優しい笑顔を見せるさやか。

やめて…ほんまにそんな顔されたら私、抑えてたもん爆発しちゃうやん。

「大丈夫…や。」

「ん?ちゃんと言うてみぃ?言わんと私もわからへんよ。」

「、」

「も、みゆきぃー!」

さやかは私の手をギュッと包んで心配そうな顔をして頭をなでてくれる。

心配かけたくないから言えへんのに、それがさらに時間をとらせる。
ほんまに申し訳ない気持ちでいっぱいで…私は泣きそうな表情でうつむく。

「さ、やか…」

「ん?言える?大丈夫?」

「さやか…忙しいのに…、私とメールしてくれるし…」

さやかは黙ってうなずく。

「それに…疲れて…んのにっ、私の心配っ、してくれてっ…んん〜。」

私は話していくうちに涙を止められなくなった。そんな私を見て黙って涙を拭ってくれるさやか。そんなさやかを見てさらに溢れ出す涙。

もう話せないほどに泣いてしまう私の話を、さやかは優しい笑顔で聞いてくれる。

「…申し訳…ないっ、やん?」

「そんなことあらへん。」

「だからっ、せめて負担に…ならへんっ、ようにってな…?思ってんっ、」

「そんなことあらへんよみゆき?」

さやかは私の顔を覗いて頭に手を置く。さすがキャプテン…私の心配は遊び事やったかのように私を包んでくれる。

「、」

「そんなこと心配してたん?」

「…うん…」

「私もみゆきとメールしたいからしてただけやし、仕事で疲れてんのなんてお互いさまやろ?みゆきが私のことそう思ってくれてるだけで嬉しいよ?な?」

「ごめん…。」

「なんで謝るん?謝るなら私の方やろ。」

「…え…?」

「私がみゆきにそんな思いさせて甘えんのも我慢させちゃってるってことやろ?そんなら私が悪いやん。」

「ち、ちゃうってさや、」

「それはもうええから。何かほかに言うことないん?私にしてほしいこと。」

さやかの優しい声が私の頭に響く。

「ほんまに…迷惑やないん…?」

「まーたそんなこと言う。せやから全然迷惑やないって、むしろ嬉しいよ?」

「…じゃあ、」

「ん?」

「…ぎゅって……してや…」

「そんなことでいいん?ははっ、ほんまにかわいいなあ。」

さやかは私の手をとって立ち上がると両手を広げて笑顔でこちらを見る。

「ん!」

また溢れ出す涙を止められないままさやかに抱きつく。
さやかは私の背中に手を回してぎゅっと力を込める。

「もう泣いたらあかんで?」

「…うん。」

「てかいまもう泣いてるやんかあ。」

「これは…嬉し涙や…」

「こんなことならいつだって言ってええのに……なんなら私もしたいよ?」

「え…」

「甘えたいって思ってるんは、みゆきだけやないってこと。」


こんなに優しいさやかの笑顔を、私はずっと受け止められるんかな…

でもいまは、さやかの腕の中で笑っていられるだけで心が満たされる。


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