Another Mirror
□Tale start from here.
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寒い
口を動かしたけれど音は発せない
目を閉じても開けても白しか見えなくて、疲れるからもう閉じたまんまにする
着ている服は服とはいえない布のようなもので、凍えきった身体を温めるなんて出来やしない
身体は氷のように感覚がなく、辛うじて動く頭でも考えるのが億劫になってきた
意識が薄れる中、思い浮かぶのは幼い頃に引き離された両親と一度会ったきりの兄さんの顔
でも赤ちゃんの時だったからおぼろげにしか見えなくて
はっきりと思い出せないまま、会えないまま消えてしまうんだろうか
いやだ 壊れたくない
まだ
もっと
視たいものもあるのに
誰か、
ワタシヲミツケテ
地獄のタクシーとして働くキャビーがそれを見つけたのは本当に偶然の奇跡だった。
ロンドン郊外の町でタクシー営業をしつつ、縄張りの見回りをしていたお昼。真冬の十二月なので空はどんよりと曇り、雪もかなり降り積もっていたため車の中で休憩をとっていた。
昼食のサンドイッチ食べ終えて仕事に戻ろうとしたその時、車が止まっている左車線と反対側の狭い路地で、何か動いたように見えたのだ。
初めは風で動いたのかと思ったが、それにしては動きがおかしい。
「ホームレスでも野垂れ死んでるのか…?」
最近では国が保護するシステムがあるため減ってはいるものの、まだまだ路地裏で骨になっている奴が多い。
見過ごしても良かったが、死体が有る街と思われイメージが下がると、自分の収益も下がる。それは何としても避けたかった。
車を降り、道路を横切ってその物体に近づく。かなり前からそこにあったようで、雪に埋もれて服の端が僅かに見えているだけ。しかもかなりの小柄なので犬猫の類かもしれない。
もしそうだとしてもせっかく近くまで来たんだ、何であるか確かめるぐらいはしようと布を捲ったそこには、
「子供…!?」
まだあどけない顔を持つ幼子。
その頬に血の気はなく真っ白で、一瞬人形かと思ってしまうほどだった。
慌てて手袋を外して脈を確認すると、微かながら動くのが感じるが、危ない状況だ。
あまり振動させないように抱え上げて、車に戻り後部座席に乗せる。
そして知り合いに電話をかけながら、車を急発進させたのだった。