Another Mirror

□Reflected colors when their eyes meet each other's.
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目を開けたらそこはてんごくだった。


真っ白なベッド、壁、天井。


空の上にあるてんごくは全部白色だって聞いたことがある。今までこんな白いの見たことがないし。




ちょっと重たい体を起こして辺りを見渡すと、一つだけ違う色があった。

「(てんしさんなのかな?でも黄色いしおとこのひとだ…)」

ベッドに突っ伏して寝ていたのは黄色い服の男性。帽子からズボンの裾まで真っ黄色で、白い部屋の中だと目に痛い。



そう言えば、と部屋の中を見渡せば色んな器具が置いていて、おくすりの匂いもする。てんごくにも病院があるんだ。
窓もあり、外は明るい太陽が昇っていた。

凄く綺麗で、もっと近くで見たいと体を動かしたらおとこのひとが起きてしまった。

「ん……?」

気だるげに顔を上げてこちらを見る目も黄色。



私が映るその瞳は、お日様みたいにキラキラしていた。




















「ドクター助けてくれ!」


自慢の足で急いで走ってきたタクシーは、掛かり付けの医者に駆け込んだ。
腕の中には街で見つけた子供。流石に毛布は無かったため、自分の上着で包んである。

継ぎ接ぎの人外れた顔だが腕は信頼できるDr.フリッツは、自分が院長を勤める病院の玄関で出迎えていた。

「事情は電話で分かってましゅ。こっちに運ぶでしゅよ!」



そのまま治療室にあの子と入っていったDr.フリッツと看護師のキャサリンを待つ事二時間。
『治療中』というランプが消え、キャサリンが押すストレッチャーに乗ったあの子供が出てきた。
見えるだけでも包帯や湿布が貼ってあり、消毒液の臭いが鼻を突く。

「先生、状態は…?」
「酷い凍傷と肺炎を引き起こしていましゅね。あと数時間遅れていたら手遅れだったでしゅ」

1,2週間安静にしていれば完治するという。それを聞き、ほっと胸を下ろす。

するとそう言えば、と説明を終えたフリッツが口を開いた。

「珍しいでしゅね、君が乞食を助けるなんて」
「まぁ大人だったら川にでも捨てていたでしょうけど…」



子供を見つけた瞬間、死なせてはいけないと思った。


後で絶対後悔すると。



「良く、分かりません」
「…ふぅん、僕はお金さえ払ってくれればそれで良いでしゅけどね」









白い病室に横たわる子供はある程度汚れを拭き取ってもらっており、ふくふくとした頬は血の気はないものの柔らかい。
閉じられた目蓋を縁取る睫毛や、緩く波打った髪はくすんでいるが白に近い色だ。

「まるで人形みたいだな…」

思わず呟きが零れるほど愛らしい姿をしていたが、髪が短いのと幼顔のせいで男女の区別がつかない。
治療に当たったドクターやキャサリンにでも聴いとけば良かったが、まさか布団を捲るわけにもいかず諦める。
まぁ点滴を変えに来た時にでも訊けばいいかと思い、その日は一旦家に帰ることにしたのだが。



それから一週間、仕事や往診のタイミングでなかなか先生と会えていない。
毎日病室には顔を出しているが、あの子供は一向に目を覚ます気配がない。ピッ、ピッと言う音が流れる心電図と、呼吸の度に上下する小さな胸が生きている事を表していて安心する。

今日は仕事が押してしまい、訪れたのはもう夜中だった。更に連日の徹夜で椅子に座った途端、目蓋が重くなる。

「(ちょっとだけ…ちょっと、だけ…)」

混濁する頭でそれだけ言い訳すると、タクシーの意識は完全に闇に落ちたのだった。











もぞり、と動く気配がする。



その振動で目を覚ましたタクシーは、周りが既に明るいことに気がついた。あのまま寝落ちしてしまったのだと慌てて起き上がり、先ほど動いたものを確認する。

そこで、




…夕焼けのように紅い瞳に目を奪われた。




 

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