Another Mirror

□Under that nib on a piece of paper.
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子供の大きな目



その見開いた紅い目に映りこんだ自分。目を逸らさず揺れもせず、鮮血よりも深い赤色に暫し見惚れた。
あんまり見つめるものだから不思議に思ったのか子供が首を傾げ、それで漸く我に返る。



ちょうどその時病室の扉が開き、振り返ると点滴の機器などを抱えてキャサリンが入ってきていた。

「あら、ようやく目覚めたのね。というか貴方一晩中ここに居たの?タクシー」
「ああ、はい。寝落ちしてしまって…」
「寝るのは別に構わないけど体調崩すと元も子もないわよ。さ、検診するからちょっと退いて」


そう言ってキャサリンは慣れた様子で子供の容態を伺う。どこか痛むところはないか、気分が悪かったり喉が渇いたりしていないかと訊くと、控えめだが横に首を振り、意識もハッキリとしているようだ。


一通り容態を確認してからてきぱきと包帯や点滴を替え始めた。

「思ったほど深く傷ついてないし、跡が残る事もないわね」
「あとどれくらいで退院できそうです?」
「そうねぇ…早くて二週間くらいかしら。ドクターの腕だったら直ぐよ。ホント、女の子の顔に傷が残らなくて良かったわぁ」
「そうですね…って女の子ぉ!?」

あまり驚きで大きな声が出てしまったようで、キャサリンと子供…いや、女の子がびっくりして固まる。
言われてみれば女の子にも見えてくるが、短髪のせいで男の子にも見えていたため、全然気づかなかった。

「あなた気づいてなかったの?」
「いやだって髪が短いんで見分けつかなくて…」
「失礼しちゃうわ、こんなに可愛いのに。ねぇ?」

と、急に呆れ顔のキャサリンに話を振られ、女の子が返答に困って俯く。


そこで思い出したが、この子の名前も何も聞いていない。

「そう言えば自己紹介もしてなかったね。オレはキャビー、君の名前は?」
「…」

怯えないようにできるだけ優しく尋ねたつもりなのだが、じっとこちらを見つめ黙ったまま。キャサリンが交代して訊くも、一向に喋る気配はないようで。

子供同士なら話せるかもしれない、と思ったその時、女の子が不意に指を動かし始めた。何かを伝えたいようで、紙とペンを渡してみる。

すると―


『My name is Anna.』


見た年齢の割には綺麗な文字で書かれたそれは、紛れもなく女の子の名前。

「アンナ?いや、アナか…?」

「アナ」のところで縦に首を振ったということは後者でいいのだろう。
「声が出ないの?」と訊くと頷き、「生まれつき」とまた紙に書いてくれた。


「えっとじゃあ君は何歳?」
『12歳』

思ってたより年が大きい。ちゃんとした字が書けたのも頷ける。
だが親はどうしたのだろう。捨てられたか或いはもう…

言うべきか考えあぐねていると、まるで心を読んだようにアナが答えた。

『お婆さんに手を引っ張られたの。それからおとうさんとおかあさんと離れ離れ』

そう紙に書いて視線を落とすアナの表情が曇った。

この文章の内容からすると、恐らく誘拐。何処かの街から攫って来たこの子を売り飛ばして、この街で奴隷のように扱っていたのだろう。
だが攫われたなら両親がアナの事を探している可能性も高いはずだ。警察に届出を出しておけばすぐに再会できるかもしない。


「なぁアナ、オレらが君のお母さんとお父さんを探すよ。それまでの間、オレらの家に住むかい?」

しっかりと目を合わせてそう問えば、初めて笑って頷いてくれた。






天使のような幼い笑顔は、朝日よりも眩しく輝く。

(いや、天使よりも可愛いんじゃないか?)

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