Another Mirror

□Twilight of adults.
1ページ/3ページ

以前キャサリンが言った通り、アナは二週間で完治し退院した。
ただアナにはオレが所属する「組織」について、詳しくは話していない。「オーナー」にも了承を得ていない今は無断であの屋敷に住まわせる事もできないし、なによりアナが耐えられそうにないだろう。

というわけで、一時的にオレの車庫にある仮眠室に泊まらせる事になったのだが、アナの生活用品はゼロで、服はキャサリンがパジャマやワンピースを含めた2,3着を貸してくれたが、それだけでは全然足りそうになかった。
その為今日キャビーとアナは街の中心地へ、退院後初めてとなる買い物に出かけていた。アナが女の子なので、キャサリンも一緒だ。

「すみません、ついて来て貰って」
「いいわよぉ、気にしないで。それにアナちゃんを可愛く着せ替えられるのすっごく楽しみだわ」

キャサリンは入院していた間に大分とアナと仲良くなったようで、アナも初対面より随分懐いている。見舞いに来た時に二人で出迎えてくれることも多かった。
退院しても自分も仕事があるので昼間は寂しい思いをさせてしまうかもしれない。日中だけでも病院で預かってもらえないかと後で頼んでおこう。




自分達が住む郊外とは違って都心は人や店も多く、いつも賑わっている。タクシーの仕事でこっちまでお客さんを送ることは時々あるが、ショッピングとして来たのは随分久しぶりだ。

俺とキャサリンでアナを挟むようにして手を繋ぎながら、最初の目的地である雑貨屋に入ると、中にはフリルやリボンといった女の子向けのグッズが所狭しと置かれていて、男のオレとしては余所者感半端無い。これはキャサリンに任せて、外で待っていたほうが良いんじゃあ…

「何言ってるの、お金はあなた持ちでしょ」
「ですよねー…」

分かってはいたが少し落胆しながら苦笑いを返す。
すると服の裾を引っ張られた感じがしたので振り返ってみれば、アナが何か伝えようと、渡してある筆談用の小さいメモ帳とペンを走らせ何か書いていた。

『キャビーが選んでくれたの使いたい』
「え…」
「あらあら妬けるわねぇ」

てっきりキャサリンとの方が話が合うと思っていたので驚きだ。でも自分に懐いてくれているのを感じて、にやけるほど嬉しかった。

「勿論、でもアナの好みに合ったやつにしたいから一緒に選ぼうか」
『うん!』

そうしてどれが好き?と訊きながら見て回ると、アナの好きな物は赤色とリボン、それと何故か鏡だった。赤、もしくはピンク色の歯ブラシやコップ、リボンのついた髪飾りを選ぶのは頷けたのだが…

「アナ、鏡もう10枚目だぞ?流石に多いんじゃぁ…」
「そうねぇ、持ち歩くにしても一つや二つで足りるわよぉ。そんなに鏡が好きなの?」

キャサリンが戸惑いながら訊くと、店中の色んな形の鏡を買い物籠に入れていたアナは、嬉しそうに頷いた。

『鏡はね、こっちと反対に映るでしょ?違う世界みたいで面白いの。それにね、鏡の数だけ違う景色が映るんだよ』

「景色が映る」とはどういう事だろう。自分も幼少の頃、反転した世界を珍しげに見ていたが、どれも同じに見えていた。
もしかしたらアナには特殊な感性が備わっているのだろうか。今アナが見つめている鏡にも、アナには違う世界が見えているかもしれない。
不思議に思ったが、アナがどうしても欲しいというので、大小合わせて15枚の鏡を最終的に購入したのだった。





一通りの買い物をし終えた時には午後三時。休憩がてらに手近なカフェに入る。

「オレはブラックコーヒーで」
「あら、甘いものは嫌い?」
「食べれない事はないですけどあまり好んでは…。アナは何が良い?」
『パフェ…食べちゃ駄目?』
「大丈夫だけど…食べきれるかい?」
『うん、お腹すいた』

その言葉通り、かなりでかいパフェをアナは嬉しそうに一人で平らげてしまった。見てるこっちが胸焼けしそうだ。
食べている間、色んな話しをした。今日買った服や雑貨、最近仕事中にあった出来事…アナは筆談で書くのが大変そうだったが、どの話も興味津々といった風に訊いて、ころころと表情を変える。その可愛らしさに和みながら、三人は時間を忘れておしゃべりをしたのだった。

 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ