Another Mirror

□Man hides his mind.
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扉を開けて入ってきたのは、審判界の重鎮であるという審判小僧ゴールドだった。

審判ファーストと似た縞模様のナイトキャップ、ファー付きのローブの端からは鎖の付いた錘。髪も目もその全てが黄金に輝き眩しいくらい辺りを照らしている。

「やぁグレゴリー、ご老体の調子はどうかね?」
「お前のせいで老眼が進むわい!もっと暗くせんか」
「それには僕も賛成です。眩し過ぎて殆ど直視できないんですけど」
「ぐっ…ぅ、お前までそれを言うか!」

弟子にも諫められて多少は光が弱まり、アナはチカチカする目を瞬かせた。
審判ファーストが言っていたように、審判ゴールドさんは物腰が柔らかく知的な人だ。しかし真実の目を持つアナはその背後に暗い影が差したのが見えて、思わずキャビーの後ろに隠れた。

「今回の遠征はどうでした親分?」
「西はなかなか興味深い事例が見れて有意義だったよ。さて、私がいない間の訓練はしていたんだろうな?後で成果を見せてもらおうか」
「あ、そうだ。この子が新しく入ったアナですよ」
「君は…真実の鏡か」

何故かじぃっとこっちを見て近づいてきたゴールドの後ろを見れば、依然として影が見えている。
恐ろしくなってキャビーの裾を掴んでいると、紹介されても反応がないアナを不思議に思ったのかキャビーが心配そうに顔を覗いた。

「アナ、どうかした?」
「おや、人見知りかい」
「そんなことはないんですけどねぇ…」

そう言われて、まだ隠れながらも慌てて貰ったメモに返答を書いていく。

『初めまして、アナと言います。ちゃんと挨拶できなくてごめんなさい。でも』
「うん?」
『あなたの後ろ、暗くて怖いの』


底なし沼のように深く暗い影。それは誰しも一度は背負うもので、時には優しさで、時には悪意で口にする。真実の鏡が一番忌避する醜い「嘘」であった。
普通嘘を吐けばその背後に今と同じ影が現れるが、それは騙している間のみ。相手がその嘘を見破ったり、もう忘れてしまった場合は消えてしまう。
しかしゴールドさんの後ろにある影は少し違った。ねっとりとゴールドさんに絡みつき放さない上に、手足まで絡みついて動きを制限しているようなのだ。恐らく、現在進行形で周りの人騙しゴールドさんの人生まで自由を奪う嘘を、ゴールドさん自身が吐いている。

そう書いた紙を見せればゴールドさんの顔色が青くなり、グレゴリーさんたちに見せる前に破ってしまった。先ほどとは全く違う冷たい目で睨まれて、体が竦む。

「ちょ、ゴールドさん何するんですか!」
「この子があまりにもくだらないことを書いているからね。全く…幼い顔をしてもやはり愚かな真実の鏡だな」

それだけ言って、ゴールドさんは険しい顔のままロビーから出て行ってしまった。その後を審判ファーストが謝辞を述べながら追いかけて行く。
人が変わったようなその態度に、場に居た誰しもが驚いたが、アナは去っていった後姿に張り付く影に一抹の不安を覚えたのだった。
そしてもう一人。

「やはりこうなったか…まぁアナちゃん相手なら屋敷を壊されることもないじゃろう」

しかしその呟きは誰も聞こえていなかった。

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