MAIN(L)

□はじめまして
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「むかしむかし…」というお馴染みのフレーズを英語で言うと「Once upon a time」

どんなヒーローだって悪役だって、昔話の中でこの言葉の前には出られない


けれど今から語る世界に過去はない、未来もない。登場人物たちは長い長い『今』を繰り返す



これはそんな狂った世界に住む人々の、まっすぐに生きた今のお話…







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「Hey、タクシー!」


グレゴリーハウスの廊下に明るい声が響き渡る。薄暗い中、全身真っ赤な電話が手を振りながらやって来るのが見えた。

呼ばれて振り返ったのは『地獄のタクシー』。これまたキツい黄色の制服、制帽を着込んでいる。
原色2人が並ぶと暗い廊下でも大分目立つ。

「なんだ、フォンか」
「なんだはないだろ〜、せっかく友人が酒奢ってやろーかと思ってんのによぉ」

赤いツナギに身を包んだ男、パブリックフォンはお札を何枚か出し振って見せた。
しかしそれをタクシーは一瞥すると、残念そうに首を振る。

「生憎、まだ仕事途中なんだよ。飲酒運転はしねぇ質だしな」

抱えた大きめのダンボール箱を見せて、溜め息混じりにそう零した。

「ギャハハ、ご愁傷様だなー!その箱もしかして地下に持ってくのか?」
「ああ、グレゴリーさんの命でな。インコとキンコの所に食材だよ」
「ならさぁ、俺もついて行っていいか?何も盗らねぇからよ」
「はぁ?別に良いけど…なんでまた」
「事情は歩きながら話すって」

 
グレゴリーハウスの地下深くは迷路とトラップで関係者以外そうそう立ち入れない。ただしタクシーは物資の運搬のため、特別に入れるようになっていた。

「俺さぁ、会いたい奴が居るんだよ」
「へぇ、誰だよ?」
「ミラーマンって名前なんだけど」

聞いた事の無い名に首を捻るタクシー。しょっちゅう地下に出向く自分でも知らなかった。

「タクシーでも知らないのか?地下に住んでるって聞いたんだけど」
「聞いたって誰に」
「本人」
「は?」
「だーかーら、ミラーマン本人がそう言ったんだよ」




「この前俺がいつものように詐欺してたらよぉ…」



廊下の突き当たり、でっけえ鏡の前でカクタスガンマンを騙してたんだよ。そしたらどこからか声が聞こえてさ、

「…おい貴様!!ベラベラと嘘吐いてんじゃねぇ!!」
「!?」

でも俺以外に誰も居ないし。
え、ガンマン?そんなの声がした瞬間にビビって逃げちまったよ。おかげで金を盗り損ねたんだぜ。
不思議に思って辺りを見渡したら、

「おい、どこ見てんだよ。ここだよ、ここ」

ってまた声がしたんだ。
まさかと思って鏡を見たら俺は映ってなくて、中に男が立ってたんだぜ!?しかも鏡の中から腕を出して俺の首絞めてくるし。

「ぐえっ…!?」
「おいパブリックフォン、鏡の前で嘘を吐くとは良い度胸だな?」
「はぁ!?つかお前誰だよ?!」
「俺はミラーマン、真実の鏡だ」
「鏡ぃ?んな奴が俺の仕事に口出しすんじゃねぇよ!!」

締め落とされても困るからソイツの腕を払って逃げたんだ。その時あることに気がついたんだよ。

「なぁ、なんで俺の名前知ってんだ」
「ん?そんなこと、見れば分かる」
「はぁ!?どういう意味だよ?」
「真実知りたきゃ自分で地下に来い」
「え、ちょっ待て!」

そう言って馬鹿にしたように笑った後、鏡の奥に消えちまったんだ。





「で、お前はそいつに会って言ってた真相聞きたいんだな?」
「それもあるけどよぉ、金蔓逃がしたからその仕返しが一番」
「頼むから俺を巻き込むなよ」
「多分なー」

 
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