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□[GET]りょくから「ハロウィンタクミラ」
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世の中がハロウィン商戦で当日の1ヶ月以上も前から辺り一面ポップなオレンジ色や紫、黒と時々見かける赤色で騒がしくなる中、タクシーは憂鬱な気分で愛車を走らせていた。この時期は台風に寄る風雨で客足が増える。それは喜ばしいことだが、びしょびしょに濡れた客は閉め切った車内に湿気と匂いをもたらす。1人2人なら耐えられるが、これが5人ともなると耐え難いものがある。
「……i know you better than you know yourself.that's not possible. after all, i've never known you. "try to show me your face of truth." ……。しけってんなぁ。」
タクシーは自嘲した。この曲は恋愛の歌だが、タクシーと、彼の恋人であるミラーにはそぐわない、恋人のすれ違いを歌った暗い歌だ。しかし彼は、ミラーが好きな"truth"と言う単語の入ったこの曲を気に入っていた。とても幼稚で単純な思考だとは彼も解っているが、どうしてもこの曲が気になって何度も聞いている内に口ずさむ様になってしまい、遂にはミラーの事を考えれば口からこぼれてしまうまでになってしまったのだ。
「ミラー……。」
いつもならまた歌っちまったな〜、と1人でニヤニヤするのだが、最近のタクシーは違った。雇い主のグレゴリーと言う意地汚い非人道的な汚い老人が、「稼ぎ時じゃぞ!!」と叫んで以来休みが貰えておらず、ミラーに全く会えていないのだ。帰りはいつも丑三つ時を過ぎ、体力のないミラーは眠ってしまっている。ぼろぼろの体で朝起きると、ミラーは身支度を済ませてタクシーの朝食を準備し終えていて、短い時間の軽い会話と行ってらっしゃいのほっぺちゅー程度でお別れだ。そんなことが3週間も続いていて、ミラー大好きなタクシーがブルーにならない筈がなかった。
「ミラー、最近ほぼ毎日出かけてるよなぁ……。どこ行ってんだろ。疑いたくねぇけど、浮気だったらガチで首吊ると同時に腹掻っ斬ってスプラッタしながら死ねるわ……。」
般若の様で泣き出しそうな迷子の様な気味の悪く恐ろしい顔をしながら、気が触れた様な独り言を言うタクシーは疲れているだけであって、実際に行おうとしている訳ではない筈である。……多分。
「その前に俺、ミラー不足で死ぬかも。」
タクシーがぽつりと、一段と低いトーンで呟く。その漆黒の瞳は、赤信号が反射して真っ赤に染まっていた。






「ただいま……。」
今日も静かなアパートの一室に帰る。愛しい恋人は自分の布団で眠っていて、隣には整えられた己の布団が敷かれている。
『ミラーのそういう所大好きだ……。』タクシーはしみじみ思った。ミラーは自分より幼いのに、その小さく細い腕でタクシーを包み込もうとしてくれる。勿論タクシーに甘える時もあるが、それよりもタクシーと対等でいたいと思ってくれているのが可愛らしくて嬉しくて堪らない。
「1人にしてごめんな……。」
ミラーを起こさない様に呟く。その声は酷く震えていて、むしろ1人にされてしまったのは自分なのではないかと錯覚まで起こってくる。
「明日からは、家にいるから……。」
売り上げのよかったタクシーは、グレゴリーから1週間の休暇を言い渡された。グレゴリーにしては優しいと思うが、それ程までに今のタクシーは負のオーラが染み出ていた。
『でも、明日もミラーが出掛けたらどうしよう。』タクシーの思考に陰が差す。
「……、寝る。」
溢れそうになる何かを塞き止め、タクシーは風呂に入ってさっさと寝た。ミラーと真っ向から向き合うことになった時の為に、体力を温存しなければならなかったのだ。



疲れのおかげか直ぐに深い眠りに就き、目が覚めたら正午ちょっと前だった。いつもならミラーが起こす筈だが、グレゴリーから連絡が来ていたのだろうか。それとも、もう出掛けてしまったのだろうか……。タクシーがぼーっと思考を動かし始めていると、
「あ、起きたな。」
襖が開いて嬉しそうな声が聞こえた。タクシーが顔を上げると、
「おはよう、タクシー。仕事お疲れ様。今日からゆっくり休めよ?」
そう言って笑うミラーの姿があった。タクシーはそれだけで嬉しかった。
「ご飯作ったから、顔洗ってきて。」
ミラーは優しくそう促すと行ってしまったが、タクシーの心は幾らか落ち着いて、彼は立ち上がると伸びをして、布団を畳んで私服を取り出した。


「どうぞ。」
食卓に座ったタクシーの前には胃に優しそうな野菜のスープとハムの乗ったトースト、トマトやコーヒーが置かれていて、タクシーの腹がくうぅと鳴った。
「いただきます。」
ゆっくり食べる朝食は久々で、タクシーは幸せを噛み締める様に丁寧に咀嚼した。タクシーが朝食を食べている間、ミラーは台所にいた。
「ご馳走さま。」
タクシーが朝食を食べ終わって満足していると、
「今日も綺麗に食べてくれてありがとう。」
ミラーが嬉しそうに言いながら皿を片付けた。
まるで台所に入るのを拒まれている様だ。
『浮気だったら……。』タクシーの頭をまた暗い考えが過る。有り得ない、ミラーがそんな奴ではないとは解っていても、早とちりのタクシーには考えないと言うのは無理な話だった。それから暫くテレビを見ていたが、全く頭に入ってこない。時計の時間は午後3時前。タクシーは耐えきれなくなり、静かに立ち上がった。


「何してんの?」
台所の入口に立ち、ミラーに声を掛ける。無意識に声が低くなり、ミラーの肩が大きく跳ねたが気にしない。
「タクシー……。」
ミラーが驚いた顔をした後、俯く。
「俺に言えないこと?」
「……」
ミラーが何か言おうと言葉を探す様に口を開きかけて閉じた。もう待っていられなくなったタクシーは、ミラーにつかつかと近寄って、キッチン台の上を見た。そして変な声を漏らした。
「んのぁ?」
余りに間の抜けた声に、ミラーがくすくすと笑う。
「ばれちゃったのなら仕方無いな。」
ミラーが観念したように溜め息を吐いた。
「ミラー、これ……。」
「Happy Halloween,TAXI!」
ミラーが照れ笑いしながら言う。発音良いな、じゃなくて。
「え、なに、ハロウィン?」
タクシーがぱちくりと瞬きをする。
「そう。ハロウィン。」
キッチン台の上に乗っていたのは、オレンジ色をしていて、可愛らしい飾りつけをされたかぼちゃタルトだった。チョコで「Happy Halloween,TAXI.」とまで書いてある。
「明日ハロウィンだから審判とお菓子作ろうってなって、毎日一緒にお菓子作りに行ってたんだ。」
照れながらも嬉しそうに話すミラーに、タクシーは安堵と愛しさと後悔が押し寄せて、溢れた愛しさによる表情筋の緩みを止めるのに必至だった。
「Trick or treatって言って、……恋人の、営みするのが、流行ってるらしくて……、俺もタクシーに言われたら、このタルトをあげようと思って、」
嬉恥ずかしそうに笑うミラーに、タクシーの切羽詰まった思考回路はショート寸前だった。
「ミラー……。」
「ん?」
「お菓子いらないから、いたずらさせて」
浮気をしてないことへの安堵と、可愛らしいことをして自分を喜ばせようとしてくれる愛しさが溢れて、「据え膳食わぬは男の恥!」などと本能が叫びだし理性など吹っ飛んでいった。
「後で食べてくれるか……?」
ミラーが悲しそうな顔をする。
「もちろん」
そんな表情をさせるのは自分だけだと思うと嬉しくて堪らないが、見てるこちらも辛いので優しく答えて額にキスをする。
「そっか。」
安堵したように笑ってタルトを冷蔵庫にしまったミラーは、
「タクシー、実は俺も……寂しかった。」
小さく呟いてタクシーの胸に顔を埋めた。そんな天使の甘えに最後の箍が外れて、タクシーはミラーの手を引いて足早に寝室へと駆け込んだ。

リビングでは、点けっ放しのテレビから
「今週一杯は台風もなくなり、秋晴れの暖かい日が続くでしょう。お出掛けなどに最適です。それでは皆さん、ハッピーハローウィーン!!」
と、天気予報のお姉さんが笑顔で手を振っていた。






・・・・
ハロウィン!しかもタ・ク・ミ・ラ!!
健気に尽くしたり、包んであげようと頑張るミラーちゃんがmj天使可愛い最高。あとミラー不足のヤンデレタクシーがまさかのハロウィンに嫉妬するとこにクスッと来ちゃいました(笑)
部屋の中にinした後は無いのかね?ん?さて天井裏に待k…後のゴニョゴニョは妄想して補う事にしようか(キリッ

時間なんて関係ないよ!貰えたこと自体が嬉しいし、とっても素敵なお話で幸せだよ!今回はほんとにありがとう、りょく!

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