MAIN(S)

□冷たい硝子に、温もりを
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「へぁっくしゅん!」


広い部屋にミラーマンのくしゃみが盛大に響いた。動いた反動で持っていた本がバサリと落ちる。

「おい大丈夫か?」
「ああ…サンキュ」

一緒にいたタクシーは、ティッシュを渡してやりながらそう問いかけた。
しかし、暑いとまでは言わないが、室温20℃に保たれたこの部屋は十分暖かい。なのに寒がったということは…


「ミラー、お前また自分の体温で冷えたな。だからいつも上着着ろって行ってるのに…」
「五月蝿い、テメェは俺のオカンか!」

そう言ってまた本を読み始めようとする恋人。
ミラーマンは15℃という通常より低い体温のせいで、時々自身の体温に寒がるという奇妙な現象が起こる。しっかりと着込めさえすれば、外からの熱を逃がさないで済むのに。

仕方なく、上着と毛布を取ってきてやり、既に読書を再開しているミラーの肩をそっと包む。しかし読むことに熱中しているのか、掛けられたそれの前を合わせること無く本を繰るので、だんだんずり落ちてしまう。
そしてついには完全に肩から落ちてしまった。

「ちゃんと掛けとかないとまた冷えるぞ」
「そんなことよりこの本が読みたい」
「それで風邪引いたら元も子もないだろ…」


自分の体調より読書、何とも知識欲旺盛なミラーマンらしいが、呆れてしまう。(因みにこの会話中もページを捲る手は止めていなかった)

どうすれば良いものか…と少し考えると、あるアイデアを思いついた。
早速ミラーの前へ移動すると、座っている彼と同じ目線になるようにしゃがむ。そのまま本ごと身体を抱き締めた。

「おい、離れろ!」
「駄目だ」
「邪魔」
「我慢しろって。俺の体温高いんだし、こうすればカイロ代わりにでもなるだろ?」
「…」
「俺は、本よりお前の身体の方がが大切なんだよ」

そう言って更にキツく抱き締めると、抵抗が止んだ。赤くなった顔を見せない為か、胸にうずまるミラー。

「…でも、これじゃまず本読めねぇし」
「身体が温まってからで良いだろ」
「今読みたいんだよ。だから…」


「…後ろから、しろ」


小さな、小さな声で囁くように、密着しているからこそ拾えた言葉。
望み通り、後ろから抱きしめてみれば、冷たい背中に温もりが伝わる。



触れたそこから生まれるは、とめどない幸せと愛おしさ

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