MAIN(S)

□Halloween!!
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その日、グレゴリーハウスでは大人たちの絶望と悲鳴に包まれた…




きっかけはほんの些細な、現世のテレビCMだった。子供たちが毎週観るアニメの合間に流れたそれは、某チェーン店のハロウィン限定アイスの宣伝。
もうそんな時期か、とテレビを聞き流しながら談話室を掃除していたグレゴリーは、いつの間にかジェームス始め子供たちに囲まれていたのに気が付いた。

「おや、どうしたんじゃジェームス?」
「ねー、おじいちゃん。ハロウィンってなぁに?」

どうやらCMで聴き慣れない言葉に興味を示したらしい。しかしそこはジェームス。「ハロウィン」の意味を教えてしまえばホテルがどんな惨状に見舞われるか分かったもんじゃない。尻拭いは結局自分に返ってくるのだから。

「そうじゃな…ハロウィンとはな、10月31日に仮装をしてゲストを脅かしたり、仮装した者と一緒に南瓜のお菓子を食べる日のことじゃよ」
「ゲストを脅かすの?」
「ああそうじゃ。とびっきり、恐ろしくな…」

うそは言っていない。このイベントは利用価値がある。ただ全て偽りだと真実馬鹿の二人が黙っていないだろう。否定されれば非難が此方に来るのは目に見えていた。だからこのように言い換えれば、普段は悪戯をするだけに留まっている子供たちも「ハロウィン」と称して自主的にゲストを恐怖に陥れることが出来る。彷徨える魂をいつもより多くあの婆に差し出せるかもしれない。


「仮装かぁ、楽しそう!ね、ミイラ坊や」
「でもジェームス、その服とかどうするの?」
「アタシ…キャサリンと一緒なら作れるよ…」
「じゃあロストドールよろしく!お菓子はシェフのおじちゃんに頼んで…」


子供たちの話がどんどん進んでいく。後は魂が集まるのを待つだけだ。
そうほくそ笑みながら、グレゴリーは備品の点検に足を向けたのだった。




「ハロウィンのお洋服一緒に作って…?」
「あらぁハロウィン?『Trick or Treat』って言うのね」
「とりっく…?」




ハロウィン当日、グレゴリーは今日のことを想像して揚々と薄暗い廊下を歩いていた。前日から子供たちの張り切りようは感じていた。さて、どれだけ魂が彷徨うことか…

「あんまり君の思い通りにはならないかもしれないよ、グレゴリー」
「審判小僧…」

光り輝く天秤に照らされ、天井からぶら下がった審判小僧ラストが自分を見下ろしてそう言った。

「今回は嘘は言ってないから僕は何も言えない。けど分岐点は無数だ。そうそう上手く行くもんじゃないよ。悪巧みなら尚更さ」
「ふん、だが所詮子供のする事だろう」
「それはどうかな?まぁ、僕は今日一日ミラーマンのとこに居るけどね、真実の天秤はそう示してる」

意味ありげな表情を浮かべ、廊下の奥へと消えていく審判ラストを見ながらグレゴリーは思案した。
ジェームスたちにハロウィンを教えた時、見たところ変な誤解は生まれなかった筈だ。だとしたら取り違えたのはその後だろう。誰が余計なことを言ったのかは知らないが、早急に誤解を解かねばならない。
そう思い、ジェームスを探すためまずは食堂へと足を運んだ。


食堂には子供たちどころかシェフの姿も無かった。もうすぐおやつの時間だが、仕事に真面目な料理長がサボる訳が無い。どこかで火が消えているか足止めを喰らっているのか。どちらにせよ料理はしてもらわなければ、シェフ探しも目的に加えた。


次に向かったのは二階のバー。子供はいないかも知れないが、もしかすると飲んでいるクロックマスターやらカクタスガンマンが目撃している可能性がある。そう考えて扉を開け…

「どうしたんじゃこれは!?」

中の惨状を目の当たりにして思わず叫ぶ。カウンター奥の棚には置いてあった酒のボトルやグラスが粉々に割れ、果実酒と思われる甘ったるい匂いが部屋中に充満していた。壁や床には所々傷がつき陥没した箇所さえある。なにより、椅子や床にグッタリと体を預けるガンマンとマスターが顔を青褪め泡を吹いていたのだ。
慌てて近くに居たクロックマスターに駆け寄る。

「おい、何があった!?」
「うう…トリックが…」
「は?トリック?」

それだけ言うと力尽きたように気を失ってしまった。

「(まさか、これは…)」

咄嗟に浮かんだのはニタリと笑うジェームス。嫌な汗が背中を伝う。ママにバレれば、恐らく頭を叩かれるだけでは済まないだろう。そうなる前にジェームスを止めなくてはならない。

「どこじゃジェームス!!!」

この際シェフは後回しに、グレゴリーはバーを飛び出した。



廊下を走っていると、今度は風呂場の近くから悲鳴が聞こえる。慌てて駆けつけてみれば既に犯人の姿は無く、廊下に気絶したパブリックフォンが転がっていた。その周りにはいくつか袋に包まれたキャンディーが。不思議に思いながらも、シェフに見つかったら拙いのでキャンディーを全て拾い、パブリックフォンは放って他の住民のところに行くことにした。


ミイラ親子の部屋は人気が無かったため、保健室に足を向ける。扉を開け消毒液のにおい漂う部屋へ足を踏み入れると、案の定、看護師のキャサリンがカルテを書いていた。

「あらぁ、グレゴリー。怪我かしら?」
「いや、そうではなくてな。子供たちについてだ」
「あの子たちなら今日はハロウィンするってロストドールが言ってわぁ、一緒にお洋服作ってあげた時に」
「ほ、他には?」
「他に?そうねぇ…ああ、『Trick or Treat』のこと知らないみたいだったから教えてあげたわよぉ」
「なんじゃとーーー!!??」


ここにきてシェフが居ない理由にも納得した、…正直したくなかったが。
「Trick or Treat」を知った子供たちはどこかでシェフにも話したのだろう。悪戯されたくなければお菓子を用意するしかない。だが他人が作ったお菓子を持っていることは、酷い被害妄想を持つシェフにとって許せないことだ。「Treat」を断れば地獄のような悪戯が、「Trick」を断ればまさしく地獄のシェフが待ち構える。どちらを取っても行き先が地獄だ。先ほど見た三人はその被害者に違いない。
これ以上被害が広がるのを止める為、キャサリンの制止も聞かずロビーへと飛び出した。


ロビーに続く扉を開けると同時に玄関が荒々しく開き、タクシーが帰ってきた。

「あんの糞餓鬼どもがっ…!」

見れば真っ赤なペイントが黄色い服に制服にこびり付いている。どうやら手遅れだったようだ。

「あ、グレゴリーの旦那!これあなたの孫にやられたんですから、ちゃんと言いつけておいて…」
「おじいちゃんハッケーン!」
「おお、ジェームス!ようやく見つけたわい!」

そこにはドラキュラの格好をしたジェームスが、後ろに他の子供たちも引き連れてやって来ていた。奥の扉からは真っ赤な眼をした料理長がギラギラとこちらを凝視している。

「ジェームス、今日はもうハロウィンは…」
「おじいちゃん!『Trick or Treat!』」

グレゴリーの言葉を遮って、ジェームスが言ってきた。それと共に後ろに控えていた子が銃や手榴弾などの数々を手に掲げる。…それはもはや悪戯とはいえない。
丁度お菓子は先ほどのキャンディーがある。しかし、それを渡せばシェフが黙っては居ない。だが子供の悪戯を回避する方法も無い。まさに崖っぷち…と、思ったその時。

「シェフ〜、おやつの時間はまだかしらぁ?」
「…!」

正に天の声。ロビーに来たキャサリンの言葉に、シェフは「しまった」という顔をし、グレゴリーのお菓子を確かめるかどうかを悩んだ末に厨房へと帰っていった。これで子供たちにお菓子を上げることが出来る。

「ほら、お菓子じゃ」
「「わーいわーい!ありがとー!」」
「これで今日のハロウィンは終わりにするんじゃぞ」
「「えー、なんでー?」」
「ホテルが滅茶苦茶になるからじゃ!お菓子ならシェフがもう直ぐ作ってくれるじゃろうに」
「「はーい」」

これでもう大丈夫だろう、そう思いながら食堂へ行く子供たちを見てほっとしたのも束の間。最後に食堂へ入っていくジェームスがくるりと振り返り、ニタリと笑って言った。

「おじいちゃん!ハロウィン教えてくれてありがとー!また来年もするからねー!」
「はぁ!?」

そうしてバタンと閉じられる扉。後ろからは何故か殺気がビシバシと感じられる。ゆっくり振り返ってみれば、そこにはタクシーの他に気絶していたはずのクロックマスターたちが仁王立ちしていた。

「そうですか…これは旦那が始まりだったんですねえ…」
「お前のせいで散々な目に…!」
「ちょ、ちょっと待て!話せばわk…」

その後、怒り狂った被害者にぼっこぼこにされたグレゴリーは、さらにキャサリンの注射の餌食になり、手に入れるはずだったゲストの魂も騒動に乗じて死神に盗られていた。それを知ったグレゴリーママにお叱りを受けたとか受けてないとか…


「ハロウィンなんてもう懲り懲りじゃー!!!!」

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