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□年初めは
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ミラーマンは眠りの底で、ここ一年の記憶を遡っていた。

真実の鏡は幻のような夢は見ず、代わりに「記憶」を見るのだ。今年あった楽しい事、嬉しい事、そして悲しい事。全部が思い出であり、今の自分を構成する「真実」だ。

これを見るのは決まって大晦日の夜だった。


12月31日


この日、グレゴリーハウスの住人は、日を跨ぐ時に起きて居てはいけない。

迷界は「一年」を永遠に繰り返す世界であり、節目となる大晦日と元旦の境では次の「一年」を迎えるためリセットが行われる。
リセットの瞬間、生命を含む全てのものが一年前の状態に戻されるのだ。勿論記憶もだが、住人たちは特別に記憶が引き継げる事になっている。

もしその瞬間に起きてしまうと、「前」にあった一年と「次」にくる一年の狭間に取り込まれ、「なかった」事にされてしまう。そうされない為にも、グレゴリーにとっては魂を集める駒が減らない為にも、年越しは禁止されていた。


「…ふ、前回の年はタクシーとの記憶が以前より増えてやがる」

明らかに増した彼との記憶。それはどれも幸せなもので、こうやって客観的に見れば「俺」の変化が手に取るように分かった。
その変化さえ悪くは無いと思うあたり重症だ。

そうしている内に記憶はごく最近の物になり、終わりも近づいてきた。
でも、もう少しだけ、記憶の中のアイツを見ていたい。黒目の中に光るキラキラした焔は星のようで、ずっと眺めても飽きないのだ。

(…ら)


その時、誰かの声がした。でもこの低い声は大好きな声だ。温かくって安心する。


(…みらー)


けれど何度も呼ばれるのは好きだが、今は眠りたいのに…


「…ミラー。起きてミラー、朝だ」
「ん…ぅ」
「おはよう」
「…はよ…」

目を開けると、目の前にあのキラキラした焔が見えた。徐々に頭がハッキリすると、周りも見えてくる。


「おせち食べるんだろ?そろそろ起きないと栗金時無くなるぞ」
「…食べる」
「じゃあ服…」
「…おい」
「ん?」
「そんなことより先に言うことは?」
「ああ…」

「今年もよろしくお願いします、ミラーマン」

「ふっ、挨拶が遅せぇんだよ。よろしくな、地獄のタクシー」


今年も2人一緒に過ごそうか

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