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□[一周年]こたつむり!
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三寒四温


冬や春先によく見られる天気の変化を表したとおり、もう直ぐ春だというのに何日も凍えるような寒さが続いていた。


「あ〜さむっ!!」

それは外で働くタクシーにとって厄介なものである。
自分は少々でも我慢できるが、寒ければお客のために暖房を入れなければいけないため、ガソリン代が余計掛かる。薄給の身には辛いことだった。

それに、こうも寒いとミラーマンが風邪を引きやすくなる。

風邪といっても人間が罹るようなウイルス性のものではなく、体の冷えすぎによる体調不良だ。ミラーが居る地下室は一年中温度が低いが、暖房がついているため室内は20度を保たれている。しかしそのため地上との温度差が酷く、ミラーが体調を崩してしまうのだ。
ミラーマンもそれは分かっているため冬場は地下室に篭りがちになるのだが、タクシーは、低体温のミラーにとってそれだけでは物足りないような気がしていた。

「どうしたもんかなぁ…」

そう考えながらも、買出しに行くために外界へと車を走らせた。









その夜、

「ミラー見て見て!」

と、勢い良く帰ってきた地獄のタクシーは、巨大なダンボール箱を抱えていた。
タクシーがこのように外界からお土産を持って帰るのは珍しい事ではないが、これほど大きな物は初めてだ。


両腕でやっと抱えられるほどのそれをカーペットの上に置くと、さっそく封を切る。
すると中には四角い天板と机の骨組み、そして分厚い布団…つまり日本でお馴染み「コタツ」が入っていた。

「なんでこんなもん…」
「ミラー寒がりだろ?必要かなって」

買ってきた本人もワクワクしながら、パーツを組み立て始める。


ミラーマンの部屋には暖炉があるが、あくまで部屋を温めるものである。普段からソファーに座って本を読むミラーにとって、足元を温めるには少しばかり心許なかった。
そうして考えたタクシーは、自分の故郷にあるコタツを思い出し、早速買ってきたという訳だ。


骨組みを組み立てたらコタツ布団と天板を乗せるだけなので、あっという間にコタツは出来上がった。
コードとコンセントを繋いだらスイッチオン。タクシーに急かされ、早速入ってみると…

「おお結構温かいな…!」
「だろー?」

向かいに座ったタクシーがさも自分の事のように自慢げに胸を張る。
男2人で少々キツいものの、中は十分暖かい。冷たい指先がじんわり温もるのは心地良かった。


「買ってきてくれてありがとな、タクシー」
「どういたしまして」


ふふふ、と二人して微笑む。

それからというもの、コタツに二人で入るのが冬の名物詩となったのは言うまでもない


「あったけぇなぁ…あ、お礼なら口にチューで!」
「良い雰囲気ぶち壊しだなお前…まぁしてやらん事もないけど…」
 

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